2020年09月25日 1642号

【野党アレルギーで稼いだ「支持」/消去法で続いた安倍政権/根底に「どうせ変わらない」意識】

 第二次安倍政権が終わった。こんな政権が7年8か月も続いたのは、比較的高水準の支持率をコロナ禍が起きるまでは維持することができたからである。一体どうしてなのか。安倍政権の「岩盤支持層」と言われた若者世代の社会意識をもとに考えてみた。

岩盤支持層は若者

 第二次安倍政権7年8か月の平均支持率は44%。29歳以下の男性では57%になる(朝日新聞の世論調査による)。このように、若年層(特に男性)の支持率の高さがこの政権の特徴の一つであった。朝日新聞世論調査部の磯部佳孝記者は、安倍政権の「岩盤支持層」は30代以下の層だったと指摘する(8/3朝日)。

 年平均で算出した年代別の内閣支持率の推移を見てみよう。安保関連法(戦争法)をめぐり世論が紛糾した2015年は、すべての年代で支持率が下がった。それでも30代以下では支持率が不支持率を大きく上回っていた。森友・加計事件が発覚した17年はどうか。40代以上の支持率は下がったが、18〜29歳の支持率は上昇した。30代は前年から横ばいだった。

 この傾向は個別の調査でも同じである。公文書改ざん発覚の直後に行われた18年3月の調査では、全体の支持率が31%に落ち込み、40代以上では不支持率が支持率を大きく上回った。しかし、30代は支持と不支持がほぼ並んだ。29歳以下では支持率34%が不支持率29%を上回った。

 変化があらわれたのは、新型コロナウイルスの感染拡大以降である。支持率が第二次政権最低の29%を記録した今年5月の調査では、30代の支持率も27%に急落(不支持率は45%)。全体の支持率を押し下げる要因となった(ただし、29歳以下は支持39%と不支持38%が拮抗した)。

 岩盤支持層の30代も背を向け始めたことに、政府・自民党は動揺した。今回の辞任劇の背景には「イメージ最悪の安倍首相では次の選挙を戦えない」という焦りがあるとみてよい。安倍晋三自身はKO負けの予感におびえ、さっさと逃げ出したのだろう。


「野党ぎらい」の理由

 問題は、安倍政権に対する不満が野党への期待にまったく結びつかなかったことである。政府のコロナ対策への批判が高まっても、野党支持は増えるどころか微減した(自民補完勢力の「維新」を除く)。

 いつの世論調査でも、安倍政権を「支持する」の理由のトップは「ほかの内閣より良さそうだから」であった。7月の「朝日」調査でも「他よりよさそう」59%がダントツの1位だ。安倍政権が消去法的選択によって「支持」されていたことがわかる。

 選択の対象として問題外という「野党アレルギー」は若者たちの間で特に強い。野党の責務というべき政府批判や問題の追及を嫌悪する風潮すらある。駒沢大学の山崎望教授は、森友・加計事件を授業で取り上げた際の反応をこう話す。

 「学生たちはこう言うんです。『そもそも、総理大臣に反対意見を言うのは、どうなのか』って」「安倍首相に対する熱烈な信頼、支持する気持ちというのは薄いんだけど、それに反対する人には不寛容なのです」(玉川透編著『強権に「いいね!」を押す若者たち』/青灯社)

 若者が「批判」という行為を嫌うのは多くの識者が指摘するところだ。彼らは「批判」を、よりよい結論を出すための建設的な営みとはみていない。「足引っ張り」や「クレーマー」といったネガティブな印象に満ちた「うざったい」ふるまいなのだ。

 どうして、そのような考えを持つようになるのだろう。山崎教授は「会社」が一つのヒントになるのではないか、と言う。「会社という非民主的な世界」の価値観が今の日本社会を支配している。若者たちはほかの世界を知らないゆえに、その影響をより強く受けているというわけだ。

 たしかに、企業組織はトップダウンで決めたことを効率よく進めていくことを善とする。社長の経営方針を平社員が公然と批判することなど絶対にあってはならないとされる…。何のことはない。大人たちが作り上げた「社会のオキテ」が、若者の意識をも呪縛しているのである。

宿命論的な社会観

 もう一つ強調しておきたいのは、若者以外の層にも幅広く浸透している「あきらめ」感だ。「政治や社会を変えるという発想自体が無意味であり、現状をそのまま受容するほうが上手に生きられる」という宿命主義的な社会観の広がり。それが自民党政権への支持を下支えしているのではないだろうか。

 2015年に実施された「階層と社会意識全国調査」のデータを分析した松谷満・中京大学准教授はこう指摘する。「『どうせ努力しても報われないのだから、長いものに巻かれるしかない』という、権威主義ですらない『宿命』主義が、自民党支持につながっている」と(吉川徹・狭間諒多朗編『分断社会と若者の今』/大阪大学出版会)。

 「どうせ変わらない。誰がやっても同じだ」という認識からは「経験を積んでいる自民党に任せた方がまだ安心だろう」という発想しか出てこない。菅義偉(すがよしひで)首相が「安倍政治の継承」を新政権の看板に掲げたのは、こうした意識を取り込む狙いもあるのだ。

新自由主義の転換を

 前述したように、安倍政権末期には岩盤支持層でも支持離れが進んでいた。コロナ禍に直面したことで、公的サービス切り捨ての新自由主義路線では命と健康を守ることができないという実感が広がっている。

 野党がそうした人びとの思いに応え、受け皿となるためには、新自由主義とは違う社会の構想を明確に示す必要がある。立憲民主党の枝野幸男代表が「新自由主義からの転換」を掲げたのは正しい。もちろん、具体的な政策の裏付けがなければ意味がない。

 市民の側も政党任せにしていてはいけない。労働運動や平和運動などを通じて、現場の訴えに響く政策を練り上げることが大切なのだ。それは世にはびこる「あきらめ」感を克服する道筋でもある。     (M)

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