2020年10月02日 1643号

【「パンケーキおじさん」恐怖の正体/官邸独裁を強める菅政権/安倍を上回る強権・隠蔽体質】

 「第三次安倍政権」「アベノママ内閣」と言われる新政権。菅義偉(すがよしひで)首相本人が「安倍路線の継承」を掲げているのだから、当然と言えば当然だ。しかし、独自色がないと決めつけるのは誤りだ。菅が重用する側近の顔ぶれをみると、前政権以上にどす黒い本性が浮かび上がってくる。

官邸官僚の交代

 菅内閣の発足にともない、首相官邸で実務を取り仕切る「官邸官僚」も一部交代した。官邸官僚とは、秘書官や補佐官など首相の手足となる側近たちのこと。第二次安倍政権では、彼ら官邸官僚が「総理のご意向」を具現化する実行部隊の役割を果たしてきた。

 ノンフィクション作家の森功によると、安倍政権の官邸官僚には3つのグループがあったという。第1に、経済産業省の出身者で固めた安倍親衛隊グループ。第2に、官房長官だった菅の忠臣グループ。第3に、安全保障政策や政権の危機管理を担う警察官僚出身グループである。

 経産省グループを率いた今井尚哉は政務秘書官や首相補佐官を歴任。アベノミクスと称した経済政策に始まり、原発の再稼働や海外輸出、対ロシア外交や戦後70年の首相談話など、数々の重要政策を主導してきた。自他ともに認める「総理の分身」であり、官邸官僚の代表格であった。

 その今井が菅政権では内閣参与という顧問的立場に追いやられた。経産省グループの佐伯(さいき)耕三首相秘書官、長谷川栄一内閣広報官もそろって退官した。連中が「失脚」した背景には、一連の新型コロナウイルス感染症対策がある。

 全国一斉休校措置、アベノマスクの配布、星野源とのコラボ動画など、今井らが強引に進めた政策はいずれも大不評で、内閣支持率の下落傾向に拍車をかけた。コロナ対応で蚊帳の外に置かれていた菅は「一部の官邸官僚のアイデアだけで政策遂行をしないでください」と安倍に詰め寄ったという(9/1西日本新聞)。

基地推進の司令塔

 首相になった菅は、安倍という後ろ盾を失った経産省グループを放逐した。自身の官邸支配を確たるものにするためだ。新たな「総理の分身」役は、首相補佐官に再任された和泉洋人が務める。「公費不倫出張」で週刊誌をにぎわせた、あの和泉である。

 和泉は国土交通省の出身。菅が横浜市議会議員だった頃から付き合いだという。特区構想のスペシャリストと言われ、加計学園の獣医学部新設をめぐっては「総理が自分の口からは言えないから自分がかわって言う」と、文部科学省に認可の圧力をかけた。

 沖縄の基地問題でも「影の司令塔」として動いてきた。辺野古新基地建設を進めるため、古巣の国土交通省から「埋め立てのプロ」とされる技官を防衛省に送り込んだ。高江の米軍ヘリパッド建設では、電源開発(Jパワー)に施設利用などの便宜供与を打診。見返りに「海外案件は何でも協力する」と約束した。

 不倫スキャンダルでしばらく干されていた和泉だが、親分の引きでしれっと復権した。菅にとっては自分への忠誠心がすべて。倫理観など不要ということだ。

公安警察が守護神

 警察官僚グループも新政権で影響力を増した。官僚トップの官房副長官には杉田和博が再任された。杉田は第二次安倍政権発足と同時に現職に就き、2017年からは中央省庁の幹部人事を一元管理する内閣人事局長も兼任している。古巣の公安警察を駆使した監視と情報収集が官僚支配の武器である。

 国家安全保障局長に再任された北村滋も公安畑の出。内閣情報調査室のトップとして「安倍政権の敵」をつぶす謀略工作を担ってきた彼が現職に起用されたのは昨年9月のこと。これは国家安全保障局を外交・安全保障分野の諜報機関にするための布石であろう。

 杉田・北村ラインは特定秘密保護法の制定を推し進めたことでも知られる。菅が安倍政権の情報隠蔽体質を受け継ぎ、いっそうの強化をもくろんでいることは明らかだ。公安警察と太いパイプを持つ武田良太や平沢勝栄を新閣僚(総務相と復興相)に起用したことも注視したい。

   *  *  *

 最新の世論調査によると、菅新政権は64%〜74%もの高支持率を得ている。自民党総裁選の過程でメディアがくり広げたイメージアップ作戦(「たたき上げの苦労人」「長期政権を支えた実力者」等々)が効いていることは間違いない。

 だが、「パンケーキおじさん」の正体は、官邸独裁体制の中心にいた謀略政治の権化である。その人物が最高権力を手に入れ、さらなる恐怖支配の下で新自由主義政策を進めようとしているのだ。ゆめゆめ騙(だま)されてはならない。  (M)

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