2020年10月09日 1644号

【菅政権の新自由主義政策/世界相手の「デジタル資本主義」競争/ポストコロナの日本「改造」が使命】

 菅義偉新首相の誤ったイメージが独り歩きしている。「苦労人」だから庶民の味方、とは限らない。菅のめざす社会は弱者・貧困者に「自助」をおしつけ、強者・富者に「公助」を用意する新自由主義の徹底にある。それはグローバル資本がめざすポストコロナの社会の姿なのだ。

支持率74%の不思議

 菅政権発足後の報道各社世論調査は軒並み高支持率を記録した。日経新聞とテレビ東京の調査(9月16、17日に実施)は74%。2001年小泉政権(80%)、09年鳩山政権(75%)に次ぐ高水準だという。

 前政権が悪いほど新政権への期待感が増すことはある。しかし、どうにも納得がいかないのがその理由だ。支持理由のトップは「人柄が信頼できる」(46%)。

 安倍政権では「人柄」は10%台といつも低位だったことを思えば、菅の人柄は安倍よりましなのか。そうではない。例えば、公職選挙法違反容疑で逮捕された河井元法相夫妻事件。河井安里に選挙資金1億5千万円を与え、安倍首相を批判した自民党溝手顕正参議員の追い落しを謀ったのは、菅の仕業といわれている。

 準強制性交容疑で逮捕状が出ながら取り消された元TBS記者山口敬之事件。この山口に菅と密接な関係のあるコンサルタントから顧問料が出ていた。山口をワシントンのシンクタンクに逃がす手配をしたのは菅ではないかと疑われている。

 菅の人柄を疑う事例は安倍に勝る。「たたき上げの苦労人」は権力維持のためなら犯罪をも隠ぺいする狡猾さを表している。

デジタル庁の背景

 そんな菅が政治権力のトップに立って、何をしようと言うのか。「ノンポリ学生だった」という菅。「私には国家観がない」と語って恥じない。政治を学んだのは秘書として仕えた閣僚経験者小此木彦三郎からだ。小此木は中曽根政権で初入閣。国鉄分割民営化や構造改革の推進者だった。菅自身、小泉政権で総務大臣竹中平蔵の下で郵政民営化を担った。そして今も経済政策のブレーンとして竹中を頼りにしている。

 竹中が何を言っているのかを見れば、菅のやりたいことが見えてくる。竹中は自著「ポストコロナの『日本改造計画』」(PHP研究所)で「デジタル資本主義で強者となるビジョン」を提唱している。ひと言でいえば、世界のデジタル資本主義競争に遅れをとらないよう「コロナ」を利用し構造改革せよということだ。

 ビッグデータとAI(人工知能)の活用を第4次産業革命と位置付ける竹中は真っ先に「医療・教育・公的部門のデジタル化」をあげる。これはコロナ以前からグローバル資本が狙う新たな市場だった。オンライン診療、リモート授業、そしてスーパーシティー構想。竹中が問題にするのは、単に設備機材の未整備ではない。問題はオンライン診療に後ろ向きな医師会や対面授業に固執する教員であり「今のうちに労働法制や教育基本法など、社会インフラの根本を見直せ」と規制緩和を要求している。

 菅が政策に掲げたデジタル庁設置は、こうした文脈の中にある。6月の段階でコロナ危機後の政治について聞かれた菅は「これまでよりも強い経済を作っていかなければならない。…経済を強くする意味では、デジタル化、オンライン化も大事です。デジタル化によって、全国で社会が一挙に変わっていくでしょうね」と答えている。

解雇・倒産は容認

 コロナをどう利用しようというのか。竹中は「雇用調整助成金は労働者の流動性を妨げる」と自著に書いた。労働者の解雇は「流動性を高める」もので歓迎、つぶれる企業を救済せず、有望企業に融資せよと主張する。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの言葉「不況のたびに資本主義は強くなる」を引用し、「今回も(強化が)起こらなければならない」と包み隠さない。

 コロナ対策として菅が力を入れるGoToキャンペーンも言ってみれば、利用できない旅館や飲食店などはつぶれても仕方がないということなのだ。「自助、共助、公助、そして絆。規制改革」。何の新鮮味もないフレーズを菅がいま持ち出してきたのは、グローバル資本の求めに応じる姿勢を示し、長期政権を担う決意の表明だったのだ。

 
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