2020年10月09日 1644号

【未来への責任(307) 注目集めた真相究明ネット記者会見】

 日本政府は5年前、「明治産業革命遺産」の中に「意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと」を記載する、と公約していた。それを反映するはずの施設「産業遺産情報センター」(今年6月一般公開)だが、そこには「軍艦島では強制労働はなかった」「朝鮮人差別はなかった」など強制動員の歴史を真っ向から否定する証言だけが展示されている。公開直後から日韓メディアはこの問題を取り上げ、日韓65の市民団体は「強制労働否定の展示に抗議し強制労働被害の実態やその証言の展示を求める」との共同声明を発表した。

 強制動員真相究明ネットワークは9月18日、記者会見を行った。会見には共同通信、朝日、毎日、読売、産経、赤旗、NHKや韓国からも7社のマスコミが参加するなど関心の高さを示した。

 真相究明ネットは日本政府にこれまで、強制動員のあった現場の被害者の証言・記録を収集し遺産の「全体の歴史」を展示すること、韓国政府や市民団体などとの対話の場を持つことなど4項目を要請してきた。しかし政府は「ユネスコの勧告に従った展示となっている」と言い逃れるだけ。

 記者会見では、登録直後から一貫して強制労働の歴史を否認する日本政府の態度やユネスコへの報告書の問題点などを指摘。また、センターの運営を委託されている産業遺産国民会議の歴史修正主義と日本政府との目に余る癒着ぶり、不透明な会計処理の実態が報告された。日本政府はこの団体に「産業労働」に関する調査研究として4年間で総額約5億円、今年のセンター運営委託費として4億円支出。団体は定款に定めた決算報告の官報への記載も全く行わず、会計の実態が不明なため告訴も検討されていることが明らかにされた。

 外村大(とのむらまさる)東大教授は「強制連行とは、1939年から45年にかけて募集・官斡旋・徴用という形で行われた閣議決定に基づく朝鮮人労働者の動員、といった歴史用語として定着している」と話す。日本政府も1997年の参議院答弁で、「一般的に強制連行は国家的な動員計画のもとで人々の労務動員が行われ、募集という段階でも、これは決してまさに任意の応募ということではなく、国家の動員計画のもとでの動員ということで自由意思ではなかったという評価が学説等では一般的」と認めている。

 6月開催予定であった第44回ユネスコ世界遺産委員会はコロナ禍のため延期されているが、日本政府の歴史修正主義が国際的に裁かれる日は近い。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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