2020年10月16日 1645号

【福島原発「生業を返せ」訴訟控訴審/逆流を許さず原告が勝訴/国と東電の責任認め賠償倍増】

 福島原発事故の被害者約3600人が国・東京電力を相手取った「生業(なりわい)を返せ! 地域を返せ! 福島原発訴訟」の控訴審判決が9月30日、仙台高裁で言い渡された。国・東電双方の責任を明確にするとともに、1審判決の賠償5億を10億に倍増させる画期的内容だ。(3面に判決要旨)

賠償区域を広く認定

 日本では、原発政策の立案は国、実施は民間(電力会社)が行う国策民営方式がとられており、事故後は国と東電が責任を押しつけあってきた。仙台高裁は、国と東電の責任範囲をあえて切り分けず、被害者への賠償を両者の連帯債務とすることで、責任の押し付け合いを封じ込めた。

 ここ最近の原発賠償訴訟では、政府機関であるはずの「地震調査研究推進本部」の長期評価を不当に貶(おとし)め、津波発生を予測できなかったとする国・東電の主張を追認する判決が続いていたが、仙台高裁は長期評価の信頼性を認定。津波被害の発生は十分予測でき、対策を講じていれば結果回避も可能だったとして国・東電の主張を退けた。

 今回の判決が大きな意義を持つのは、損害賠償地域の範囲を大幅に広げたことである。その範囲は、これまで比較的放射能汚染の程度が低いとして切り捨てられてきた福島県南部(白河市など)、会津地方東部(会津若松市など)に加え、宮城県丸森町、栃木県の一部地域に及ぶ。チェルノブイリ事故の際、旧ソ連政府が希望者に移住を認めた「移住権利ゾーン」(事故による追加被曝量が年間1_シーベルトを超える地域)と同程度の汚染地域、避難の必要はないとしたものの「特別の放射線管理が必要」と定めた区域と同程度の汚染地域までを賠償範囲に含むものとなった。

 2012年に成立しながら骨抜きにされた「原発事故子ども・被災者支援法」に実体を与える端緒を切り開いた点も見逃せない。

 福島在住者と避難者が共同で提訴した訴訟の本質を理解し被害者に寄り添った判決の意義は大きい。

上告断念し救済を

 日々、被曝にさらされながら汚染地で生活する精神的苦痛が今も続く福島在住者。「勝手に逃げた」との言われなき中傷を浴びながら経済的困難に今も直面する避難者。被害はどちらも同じように大きい。

 福島原発事故からまもなく10年。「復興」と称して行われてきたのは大型建設工事などグローバル資本を喜ばせる事業ばかりで、一人ひとりの被害者に寄り添う真の意味での復興は今なおまったく進んでいない。

 判決後、原告団と弁護団が出した共同声明は、上告断念と謝罪、被害者の十分な賠償、生活や生業の回復、原発の即時停止と廃炉を訴える。国・東電はこの要求にただちに応じなければならない。

資料 生業訴訟仙台高裁控訴審 判決要旨

 (国と東京電力の責任を認めた部分をまとめた。)

東電の予見可能性

 地震調査研究推進本部(地震本部)が2002年7月に公表した「長期評価」では、福島県沖についても、今後30年に6%程度の確率で、マグニチュード8・2前後の地震が起きる可能性があるなどとされた。地震本部は、地震防災対策特別措置法に基づく国の公的機関であるから、「長期評価」は一専門家の論文等とは性格や意義が大きく異なる。

 東電は、08年4月「長期評価」を踏まえた津波地震のシミュレーションで、津波がO.P.(小名浜港工事基準面)+15bを超える試算結果を出しており、福島第一原発敷地の高さ(O.P.+10b)を超える津波の到来について、予見可能性があった。

東電の義務違反の程度

 「長期評価」等の重大事故の危険性を示唆する新たな知見に接した際の東電の行動は、知見を直ちに防災対策に生かそうと動かず、新たな防災対策を極力回避し先延ばしにしたいとの思惑のみが目立つ。義務違反の程度は決して軽くない。

国の予見可能性

 地震本部は文部科学省に設置された組織で「長期評価」は当然に国の知見とすべきもの。経済産業大臣が東電に対し、直ちに「長期評価」の見解を踏まえた試算を指示し、あるいは規制当局として自ら試算すれば、遅くとも02年末頃までには、福島第一原発敷地を超える津波が到来する可能性について認識し得た。

国の結果回避可能性

 原告らが主張する防潮堤設置などの結果回避措置が実施できなかった、または実施していても事故が回避不可能であった旨の国の主張は採用できず、結果回避可能性及び因果関係がある。

総合的検討

 東電・国とも、「長期評価」による津波の試算が行われれば対策措置を講じなければならなくなる可能性を認識しながら、その影響(東電の経済的負担)の大きさを恐れ、試算自体を避けあるいは試算結果が公になることを避けようとした。

国の損害賠償責任

 経済産業大臣の規制権限の不行使は違法かつ過失もある。不行使と事故との因果関係も認められ、国は損害賠償責任を免れない。東電及び国は原告らの損害全体に損害賠償の連帯債務を負い、同等の責任がある。

結論

 被告東電・国に、連帯して原告らに合計約10億1000万円及び遅延損害金の支払いを命じた。

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