2020年10月16日 1645号

【新型コロナ対策本部「今後の取組」/カネかけずやってるフリだけ 菅政権/保健所人員、PCR検査 大幅拡充を】

 菅新政権は新型コロナウイルス対策も安倍継承。政府の対策本部による「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」(8/28、以下「今後の取組」)以外に新たな方策はない。ここでは、その「予防対策・検査」についてみていく。

元凶は人員大削減

 「今後の取組」は保健所の負担軽減を「運用見直し」の目的の一つとし、加藤勝信前厚生労働相は、新型コロナの第2類感染症から第5類への変更を示唆していた。当面見送られたが、第5類に格下げすれば保健所による積極的疫学調査は不要となり、PCR検査は全額公費負担でなくなる。

 新型コロナに対する保健所業務は▽医療機関・市民からの相談▽検査実施の判断▽検体採取・搬送▽検査陽性時の接触者追跡調査▽陽性者の療養先の割り振り▽療養者の健康観察追跡など。検体採取等を検査スポットで実施しても、なお業務は多岐にわたり過酷な労働が度々報道されている。

 根本的原因は保健所数・保健所職員の削減にある。感染症対策の主力である保健所の保健師は絶対数が不足しているのだ。

 人口10万人当たりの就業保健師数は、全国平均が41・9人だが東京都は28・4人、大阪府は25・9人。それぞれワースト3位と2位だ。しかも、この数字は保健所だけでなく市町村保健センターや企業の労働安全衛生に携わる保健師も含んでいる。全国データでは、保健所勤務の保健師は全体の15・3%に過ぎない。

 自治体の総人件費抑制で、「成長戦略」につながらないとされた部門の人員は大幅削減された。自民党大阪府政・維新府政は保健所の削減を続け、大阪市に至っては現在1か所しかない。

臨時・正規の大量採用へ

 「今後の取組」が示す対策は何か。「保健所体制の整備」では「都道府県単位で潜在保健師等を登録する人材バンク、保健所等の恒常的な人員体制強化に向けた財政措置を検討する」だ。

 保健師の人手不足は深刻だ。「連日23時まで勤務。PCR検査データが出てくるのは夜中の2時3時のことも」といった過酷な保健所現場で感染リスクを背負いながら非正規待遇では誰が人材登録するというのか。しかも「検討する」であって、実行の保証はない。全くのごまかしだ。

 米ニューヨーク州は、新型コロナ感染症対策として、訓練された臨時職員3千人を雇い入れ、追跡調査を担わせた。少なくとも、本年度は同様の対策をとり、保健所専門職の負担軽減を図らなければならない。そして来年度に向けて、正規職員の大量採用を都道府県や保健所設置市に要求しなければならない。

抗原検査でごまかす

 「今後の取組」は、新型コロナの検査について「検査体制の抜本的な拡充」を打ち出した。市民のPCR検査拡大要求が政府を突き動かしたものだ。

 だが一方、政府は小手先のごまかしを狙う。「1日20万件程度に大幅拡充」と言うものの、「抗原簡易検査キットによる検査を大幅に拡充」が軸で、PCR検査や抗原定量検査は「機器の整備を促進し、必要な検査体制を確保する」。せいぜい検査機器購入補助の程度だろう。数値目標もない。

 抗原簡易検査キットは、PCR検査(咽頭拭い液)との比較で、陽性一致率66・7%、陰性一致率100%となっている。厚労省自身「陽性の場合には確定診断とすることができる。陰性の場合には、確定診断のため医師の判断においてPCR検査を行う必要がある」(SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン)とする。

 陽性一致率66・7%とは、33・3%が偽陰性(検査結果が陰性と出るが実は感染している)であることを意味する。市民のPCR検査拡大要求は、生活圏での感染拡大防止のためだ。PCR検査と比べて3割以上の偽陰性が出るのでは、市民の要求に応えるものとはいえず、目くらましだ。

 「精度に問題」「検査拡大で軽症者が続出すれば医療機関がパンク」など、検査拡大に否定的な専門家もいる。しかし、どのような検査も限界はある。現時点で最も信頼できるのはPCR検査などの遺伝子検査だ。検査拡大要求には十分に正当な根拠がある。隔離患者増への対策は、臨時病棟新設で医療機関の負担にならないようにすれば「病床ひっ迫」は抑えられる。

 要は「対策にカネをかけろ」ということだ。

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