2020年10月23日 1646号

【学術会議への介入はなぜ/“研究費ほしけりゃ従え”との脅し/軍事研究への抵抗を崩す狙い】

 日本学術会議の一部会員任命拒否事件。菅政権は任命拒否を正当化するのに「10億円の予算」を持ち出した。税金を使う以上、口出しは当然という理屈だ。言い換えれば、政府の意向に沿わない研究には金を出さないということだ。なぜ、こんな脅しを研究者に向けたのか。

3度目の拒否声明

 介入のきっかけになったのは学術会議が2017年3月に発表した「軍事的安全保障研究に関する声明」だ。この声明には「2つの声明を継承する」とある。1950年声明「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」と67年「軍事目的のための科学研究を行わない声明」のことだ。そして3度目の軍事研究拒否の声明となった。

 50年声明は学術会議設立目的でもある戦争協力への反省が表明された。67年はベトナム戦争中の米軍から研究費を受け取っていたことが発覚し、改めて軍事研究拒否の声明を出した。

 では3度目の声明を出す背景は何だったのか。それは15年に始まった防衛省防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」のためだ。声明は「(この制度は)将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と危機感を示す。

 日本の学術研究者約84万人を代表する機関として位置づけられている学術会議。本来、防衛省が制度をつくる前に警鐘を鳴らすべきだったのだが、当時の会長大西隆(豊橋技術科学大学長)は「自衛目的なら許容されるべき」との立場だった。この年10月、会長が山極寿一(京都大学長)に替わり声明に至った事情がある。

防衛省の助成制度

 この防衛省の「安全保障技術研究推進制度」はどれほど影響を及ぼしているのか。制度は大学や研究機関からの応募を募り、採択した研究には年間3千万円を3年間支給するとしてスタート。初年度は109機関(うち大学は58校)の応募があり、9件が採択された。そして20年度は過去最高120件(大学は9件)の応募があり、21件を採択した。制度も最大5年間20億円を助成する大規模研究部門が作られるなど「拡充」されている。予算は5年間で30倍以上となり、20年度は95億円(19年度は101億円)にまで膨らんでいる。

 「戦争には協力しない」立場を貫くのは簡単ではない。「防衛省の制度には応募しない」と16年に決めていた国立天文台だが、19年になって常田佐久台長が再検討を提案。「自由に使える資金が減って困り、財源の一つとして防衛省助成制度を検討した」(6/7東京新聞)と苦しい胸の内を語っている。

 国立大学や研究機関は法人化され、研究者は自前で研究費を調達しなければ研究が続けられない状況に追いやられている。宇宙空間を軍事利用したい防衛省は国立天文台の技術をあてにして誘ったが、結局、国立天文台を含む9つの研究組織でつくる自然科学研究機構が応募しないことを決めた。国立大学では04年度の法人化以降、運営費交付金が10年間で約10%減額され、ここ数年は横ばい。19年度から「評価による配分」が始まった。研究費に飢えた状態はなくならない。

研究の「入口」が問題

 科学研究費の総額はほとんど横ばいだ。学術会議は「軍事的安全保障研究予算が拡大することで、他の学術研究を財政的にいっそう圧迫し、ひいては基礎研究等の健全な発展を妨げるおそれがある」と指摘している。基礎研究は、「直接兵器開発と結びつくわけでなく、軍事研究とは違う」と誘惑に負けやすい。だからこそ学術会議も研究の「入り口」である資金提供先を明確に区別すべきとの姿勢を示している。

 菅政権が学術会議の会員から排除したのは戦争法に反対した人文科学系の研究者だった。「政府に逆らう者は冷や飯を食わされる」ことを見せつけたのは自然科学系の研究者への脅しとする狙いもあったに違いない。

 安倍政権は「モリ、カケ、桜」で身内に税金を使う腐敗ぶりをさらした。菅はきっと「俺は違う。学術研究を操るために使う」とつぶやいているに違いない。



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