2020年10月23日 1646号

【生存権破壊の新自由主義 「兼業・副業」はすべて自己責任】

 雇用崩壊は今や非正規雇用にとどまらない。

 ANAは、社員が勤務外の時間を使って他社と雇用契約を結べる副業をパイロットや客室乗務員を含む全従業員に対象拡大する。年収平均3割減という一時金ゼロ・基本給引き下げ提案の一方で、副業による自己責任で収入確保を求めるというものだ。こうした「副業・兼業」の拡大は、コロナ―テレワーク推進をはずみに急速に進みつつある。

 「働き方改革」が宣伝される中、経営側は副業等の導入について、労働基準法38条(事業場を異にする場合の労働時間通算制度で長時間労働規制)の「見直し」=骨抜きを主張していたが、労働政策審議会(労政審)で「副業・兼業普及」を先行させる方向に転じた。

 7月30日労政審労働条件分科会の段階では、「副業・兼業」をめぐり、(1)通算制度と割増賃金支払い義務は継続(2)労働者による自己申告制(3)通算の仕方を「ガイドライン」に盛り込み簡便に管理(4)労働安全衛生法上の健康確保措置整備―に関して労使両論を併記する「資料」提示だけであり、多くの検討課題があった。

 ところが8月27日、厚生労働省は労政審で「副業・兼業の促進に関するガイドライン」案に「新旧対照表」を付けて提示。傍聴をマスコミ関係者のみとし、労働側が了承する形で一気に決定してしまった。事実上「副業・兼業」拡大へのゴーサインだ。

労基法も無視

 ガイドラインでは、懸案の長時間労働に対する健康確保措置について、「使用者の指示により当該副業・兼業を開始した場合」、使用者は労働者の申告によって労働時間を把握し健康確保措置を実施すると規定している。労働者が自由に行うはずのものを「使用者の指示により」とするなど意味不明な部分が多々ある。

 だが、「副業・兼業の促進」に込められた最大の狙いは、労働者の「自由意志」で開始する以上あくまで自己責任とし、長時間労働であれ労働災害であれ、経営側の責任を回避するところにある。導入の実態が先行すれば、さまざまな手立てで労基法無視は可能と見こしているのだ。

 非正規労働者の多くがダブルワーク、トリプルワークで生計を維持せざるを得ない実態がある。それを正規労働者への「副業・兼業」推進で社会全体に広げ、労働時間管理まで自己責任化しようとしている。

 労基法無視、生存権破壊の新自由主義路線を転換させる闘いは待ったなしだ。

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