2020年10月23日 1646号

【未来への責任(308)菅首相の歴史―植民地支配認識】

 6月30日、ベルギーのフィリップ国王はコンゴのチセケディ大統領あて書簡で、コンゴ植民地支配について「謝罪」した。「コンゴ自由国の時代に犯された残虐な暴力行為は、今なお私たちの集団的記憶に重くのしかかっています。それに続いた植民地統治の時期も、同様に、数々の苦悩と屈辱を引き起こしました。私は、この過去の傷に対して、最も深い遺憾の意を表明いたします」と。

 フランスのマクロン大統領は2017年の大統領選挙中、「植民地化」は「人道に対する罪」に当たる「蛮行」であり、フランスはその過去を直視すべきだと述べていた。

 米国で始まり、今も継続している「ブラック・ライヴズ・マター(BLM、黒人の命を軽んじるな)」運動は、人種主義・黒人差別を告発する運動であるとともに、その根源にある奴隷制、植民地主義の克服を迫る運動として展開されている。これは欧米の「白人国家」、旧植民地宗主国にのみ問われていることだろうか。そうではない。

 テニスの大坂なおみさんは、全米オープンの女子シングルス優勝後に、人種差別や警察の暴力の犠牲者7名の名前を記したマスクを着用したことの意味を問われたが、「あなた方はメッセージをどう受け取ったか」と問い返した。この国で、私たちは彼女のメッセージをどう受けとめるか、考えていく必要がある。

 菅義偉(すがよしひで)首相は2014年1月、中国ハルビン駅に安重根(アンジュングン)記念館が開設された際、「安重根は日本の初代首相を殺害し死刑判決を受けたテロリスト」と述べた。安重根が韓国では植民地支配に抵抗した「義士」と見なされていること、死ぬ間際に平和共存論に立った『東洋平和論』を著したことなど、彼の眼中には全くないようだ。

 また、2015年9月、辺野古新基地建設をめぐる政府と沖縄県の集中協議の場で、翁長雄志前知事が沖縄の苦難の歴史を伝えて自らの思いを語った時に、菅官房長官(当時)は「戦後生まれなので、沖縄の置かれてきた歴史についてはなかなか分かりません」と冷たく突き放した。このような歴史認識、植民地支配認識の持ち主だ。

 その菅首相が率いる内閣の支持率が60%、70%もある。そんな中で私たちは運動している。

 しかし、「国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」たという1995年村山首相(当時)談話は消せない。このことに向き合ってこそ、強制動員問題も解決できる。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

 
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS