2020年10月23日 1646号

【小規模デイサービスは介護の基本/実践を重ねながら、介護抑制政策と闘う】

 MDS「18の政策」の1つに「尊厳ある生活を保障し、必要な人に必要な介護を全額公費負担で行う新たな介護支援制度をつくる」とある。東京・足立区で介護事業所を営む大久保信之さんはこれを「希望のもてる、自分たちのがんばる方向性だ」と考えている。

 NPO法人として在宅サービスの小規模多機能と認知症グループホームの2つの事業を行っています。

 2000年に向けて介護保険制度への動きが加速する中、それまで病院の相談員として働き、日常生活が心配なおばあさんたちを時々訪問して食事を届けたりしていたのですが、お年寄りが安心して生活できない状況を痛感し、「宅老所」を開設しました。各地の宅老所ではこの頃すでに小規模・多機能・地域密着のスローガンが掲げられていました。

 病院の仲間3人で始めた2Kのアパート、5名定員のデイサービス。東京都の担当者に「ここで本当にやるんですか」と驚かれたほどです。当初は働きながらの週1回の自主事業でしたが、1年後にNPOを設立しました。

お年寄りの意思で

 始めてみて小規模デイサービスの良さがわかったことを覚えています。通うお年寄りが食事の支度や片づけ、掃除など自然と自分ができることをして、楽しそうに生き生きした姿を見せてくれたのです。介護保険では自立支援をよく耳にします。宅老所ではこうしたことが自然に体現されていて、それは小規模だからできたことだと言えます。

 散歩に行きたい、何か食べたい、昼寝したい、買い物に行きたい…お年寄りの意思に基づいて1日が流れていきます。自立支援ももちろん介護する者との相互の関わりが必要です。いつまでも人の助けを借りずに生きていくことはできません。信頼関係を作り、その人らしさを知り、良いところ悪いところを認め合いながら支援することが必要です。身体的な自立に狭めてはいけないのです。

 2015年に要支援が通所介護と訪問介護から外され、要介護1・2も外そうとする動きがあります。今、私の小規模多機能で濃厚なかかわりになっている利用者は要介護1・2です。

 足の踏み場もない環境にいるおばあさんは熱中症で家の前で倒れ、環境を整えるまで泊まってもらいました。業者を入れて片づけをし、さらに生活しやすくハウスクリーニングをさせてほしいと言っても強く拒否され、家に入れてくれません。来所しなくなると預かっている服薬にも影響します。もう1人、同居の夫が入院し退院まで泊まりを利用するおばあさんは、夫が入院していることをすぐに忘れ、様々な妄想が生じて混乱し、当初は1日おきに一睡もしませんでした。これは認知症があり、身体的には自立しているお年寄りの実態です。

必要なケアをこそ

 こうした状態で介護保険サービスが利用できなかったら、どこで対応するというのでしょうか。要介護度で選ばず、必要な援助は何なのかを明らかにした必要なケアを行うことが求められます。厚労省は各自治体の判断で要介護でも総合事業に移行できるようにしようとしています。自治体に押しつけ、既成事実を作ろうというのでしょうか。私は要介護認定は必要ないと思ってきました。国の姿勢は介護にかかる費用をいかに減らすかです。医療と合わせてこうした姿勢がコロナ禍で重大な問題を生じさせています。抑制政策であってはいけないことは明らかです。

 5名定員はその後9名、そして今15名と増えてきました。15名という規模は大きく、宅老所を実現してきた者にとっては5〜10名以内の規模が適切だと思っています。小規模ケアはお年寄りの介護をしていく上での基本になる。これはもう間違いなく、自信をもって言えることです。どんな認知症の方にも対応できます。これからもその実践をしながら、さまざまな介護抑制政策と闘っていきたいと思います。

 
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