2020年10月23日 1646号

【新・哲学世間話 (22)ここに手を突っ込んでくるか 田端信広】

 成り立ちから「筋の悪い」内閣とはいえ、「よりにもよって、ここに手を突っ込んでくるか」。学術会議会員推薦者のうち6名を菅首相が拒否したとの一報に接した率直な感想である。

 日本学術会議は、優れた学問的成果・業績をもつ、選ばれた210名の会員で構成され、内部には、3つの部会と、すべての学術分野を網羅した32の分野別委員会が設置されている。会員とは別に約2千名の「連携会員」を擁し、数多くの学術的・科学的提言を社会に発してきている。

 会員の任期は6年、3年ごとに半数が入れ替わる。今回、同会議が推薦した105名のうち6名の任命を菅首相が拒否したのである。

 問題の核心は単純かつ明瞭である。日本学術会議法第7条2は、会員は同会議の「推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」と謳っている。推薦を「参考に」でも、「経て」でもなく、「基づいて」と明記していることは決定的である。法律の条文からして、総理大臣には形式的任命権しかなく、候補者を取捨選択する権限はない。だから、歴代内閣はそのように対処してきた。菅首相だけが公然と「違法」行為を行っているのである。

 彼があえて「違法」行為を行った理由も明瞭である。6名が「お上に楯突いた」連中だからである。今回任命を拒否された学者たちは、「安保法制」や「共謀罪法」に反対する学者グループの声明の「呼びかけ人」か「賛同人」に名を連ねた人たちである。誰がどう見ても、拒否の理由はこのこと以外にありえない。

 ところが、菅首相はその理由を明らかにできない。明らかにすれば、「政治的理由」によって、学術会議の会員人選に、ゆえに学問の自由に介入したことを認めることになるからである。

 学問の自立性と自由に対する政治権力の公然たる介入は、いつもは反応の鈍い「学者の世界」を急速に動かしつつある。新聞報道では、すでに93の学会が抗議・批判声明を出している。その数は数日のうちに倍増するであろう。ウェブ上で個人に呼びかけられた抗議の陳情には、またたく間に14万人以上の研究者が署名している(10/10夜現在)。これも異例のことである。

 世界的な権威をもつ科学雑誌『ネイチャー』も、社説でこの問題を批判している。傲慢な権力者の暴挙を許さない、菅包囲網は急速に広がっている。

(筆者は元大学教員)
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