2020年10月30日 1647号

【恐怖が支配する「菅王国」/中曽根に「弔意示せ」と通知/官僚・マスコミ・教育界に「従順」強いる】

 菅政権発足わずかひと月ながら、その凶暴さは日増しに強まっている。日本学術会議の任命で、戦争法反対など政権を批判する学者6人を見せしめにした菅義偉首相は、今度は元首相中曽根康弘の合同葬に合わせて、「弔意を示せ」と国立大学や自治体・教育委員会などを脅しにかかった。

 首相経験者とはいえ、政府が1億円の税金を使って自民党と合同葬を行うこと自体、批判されるべきものだ。そもそも中曽根は戦中、海軍の将校として慰安所設置を主導した犯罪人だ。戦後、国会議員として原発を推進し、首相になってからは国鉄分割民営化により国鉄労働組合を潰し、労働者派遣法をつくった。今日の格差社会の根源である新自由主義の導入者だ。まして、リクルート事件などいくつもの贈収賄事件への関与が疑われ、一時自民党を離れたこともある。

 この悪人に「弔意」を示せという。文部省からの通知は「協力要請」としてはいるが、意に沿わねば不利益を被ると先読みさせる陰湿さがある。いわば「従順度」をはかる踏み絵にしようというわけだ。危険分子をあぶりだし、他を沈黙させる。菅恐怖政治の狙うところだろう。学術会議に続く思想統制との批判が湧き起こって当然だ。

排除の効果

 異を唱える者を排除することで菅の恐怖政治は成り立つ。古くは第1次安倍政権総務大臣時代、「ふるさと納税」導入時に「税の根幹を揺るがす」と反対する自治納税局長を左遷した。結局、このふるさと納税は地方交付税交付金の削減の中で返礼品など自治体間競争を誘う悪政だった。

 第2次安倍政権で官房長官となり、「集団的自衛権は憲法違反」とする内閣法制局長官を交代させ、戦争法成立へと強権を振るった。加計学園の獣医学部開設に反対する文部官僚を蹴散らした。退職官僚の「醜聞」さえでっちあげた。

 未遂に終わったが、不祥事のもみ消しのために特定の検事の定年を延長しようとしたことも、恐怖による支配と同じことだ。

 支配は官僚にとどまらない。マスコミに圧力をかけ、政権に批判的なキャスターやコメンテーターを干し上げ、太鼓持ち芸人を取り込んだ。NHK会長人事に口を挟んだのもそうだ。不都合な質問をする記者を排除する一方で幹部社員を懐柔。放送界を監督する総務大臣に警察官僚を据え、引き続きにらみを利かせてもいる。

 官僚、マスコミ、そして今回、研究者、教育関係者に矛先をむけているのだ。

   * * *

 菅が批判を受けながらも理由を語らないのは説明能力がないためだけではない。菅は、元米国務長官コリン・パウエルの著書に「記者には質問する権利がある。私には答えない権利がある」と書かれたのを読み、それ以来、居直ることを覚えた。正しいと確信さえ持っている。パウエルは国連でウソ演説を行い、イラク開戦へ道をつけた。恐怖が支配する「菅大国」は戦争に突き進む準備であることに警戒を怠ってはならない。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS