2020年10月30日 1647号

【大阪市廃止=自治権放棄に「反対」を/「府市一体で成長」は維新の大ウソ/「二重行政」ではなく「二重支配」される市民】

 大阪市を廃止し4つの特別区に分割する「大阪都構想」。その是非を問う住民投票が11月1日に迫った。「都構想」では市民生活は守れない。自治体としての権限も財源も大阪府に奪われてしまうからだ。モデルとする東京では、特別区長会が都区制度の廃止を決議している。強引に「都構想」を押し通そうとする維新政治に待ったをかけよう。

二重行政は必要

 世論調査で「都構想」賛成の一番の理由は「二重行政解消」。だが市民生活の安全・安心のためには、行政は多重であるべきだ。

 大阪市の生活保護率は政令市の中で一番高い。生活困窮者に対し、府・市がそれぞれに手厚い救済策を練ることは必要だ。「二重行政」と非難されるものではない。「都構想」ではどうなるか。特別区の税収は今の4分の1に激減。財政調整財源も8割しか戻らない。大阪市ならできたことも特別区では困難になる。東京・世田谷区が実施したPCR検査などの独自政策は税収が貧弱な大阪・特別区では到底望めない。

 維新の「二重行政解消」は市民にはマイナスだ。代表例は住吉市民病院の閉鎖だ。府の急性期・総合医療センターに機能統合した結果、小児難病患者など長期入院が必要な市民の行き場がなくなった。貧困家庭・若年妊婦など生活支援も含めた医療を提供してきた市民病院。高度医療はもちろん必要だが、市民生活を守る医療の切り捨てと引き換えであってはならない。


権限を失うのは市民

 維新は「大阪が成長できない」ことも「二重行政」のせいにする。「知事と市長の対立がなくなれば成長する」。だから大阪市の権限をなくそうと言うのだが、権限を失うのは市長でも市議会でもない。大阪市民だ。

 考えてみよう。大阪市のままなら、選挙で市政を変え市民要求を実現することは可能だ。だが、特別区では区長を選ぶことはできても、政策を実施する自主財源は限られる。財政調整資金の分配を決めるのは実質大阪府。財源を確保するには知事・府会議員を交代させる必要がある。府政が争点となる知事・府会議員選挙で区民要求が主要争点になることはない。住民自治は身近にはならない。

 維新は「住民サービスの低下はない」と言うが、これは嘘・ごまかしの類だ。協定書では住民サービスを「維持するものとする」としているが、特別区ができた後は「維持するように努めるものとする」と努力義務に格下げしているのだ。

 「二重行政で成長が遅れた」との言い分は大規模開発へ誘導する便法に過ぎない。「府市一体で大阪の成長を実現した」と維新は宣伝するが、実際はどうか。大阪府はほとんどの年が国の成長率を下回っている。「成長を止めるな」とは市民をだますものでしかない。

 しかし、いまさらカジノや万博などのビッグ・プロジェクトで経済成長をと考えること自体、時代錯誤も甚だしい。開発行政は環境破壊や格差拡大という社会のひずみを生み出した。ましてコロナ禍。市民生活の安心・安全を優先した政策への転換が求められている時代なのだ。

周辺市にも拡大狙う

 「都構想」は大阪市民以外にも大きな影響を与えることを忘れてはならない。

 「都構想」の根拠法となっている「大都市地域特別区設置法」では、特別区に隣接する市町村は、府議会と市町村議会が協定書を承認するだけで特別区にすることができるとされている。住民投票は必要ないのだ。もし、維新首長・維新議員が増えれば、ドミノ倒しのごとく広がっていく。

 実際、橋下徹元大阪府知事が初めて公表した「都構想」は、隣接市も含めて特別区に組み込み、財源を吸い上げるものだった。当該市長の反発で大阪市に限らざるを得なかったが、その復活を諦めてはいない。

 都区制度に詳しい大森彌(わたる)東大名誉教授は、かつて東京23区の区議研修会(2012年)で、「東京の都区制度は、(都、特別区)双方とも幸せではない。大阪は絶対、不幸せになる」と橋下都構想を厳しく批判した。「生きているうちに都区制度を廃止したい」とまで言っている。

   *  *  *

 要は権限と財源配分の問題だ。大阪市民にとって「二重行政の解消」とは、地方交付税と財政調整財源の配分を通じた政府と大阪府による二重支配に置かれることを意味する。「都構想」は、経済政策の点からも、自治強化の点からも時代を逆行する行為なのだ。
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS