2020年11月06日 1648号

【2021概算要求/コロナ禍≠ナも軍事費は青天井/戦争ではなく市民生活に回せ】

 政府内の2021年度予算概算要求が出そろった。総額は過去最大の105兆円にのぼる。軍事費はまたもや史上最高を更新したうえ、金額を明示しない「事項要求」を乱発。予算の使い道を市民の目から隠し、民主的財政運営を阻害するものだ。

 防衛省は21年度5兆4898億円(20年度当初予算5兆2625億円)だ。安倍第2次内閣発足時の13年度当初予算(4兆7538億円)以降、9年連続の増額、15年度以降7年連続過去最大額は確実だ。

 しかも、この金額は最低ラインだ。概算要求で、防衛省は高額かつ批判が強いものについては、金額を示さない事項要求としているからだ。




新基地建設費隠ぺい

 そのひとつは、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)関連・米軍再編・政府専用機・国土強靭化にあてる経費だ。20年度は3400億円だったが概算要求では事項要求とした。この中には辺野古新基地建設が含まれている。マヨネーズ状の軟弱地盤対策、断層対策、粘り強い反対運動を抑圧するための「警備費」など、全く積算できない要素が多いからだ。

 とん挫したイージス・アショアの代替え措置も事項要求だ。イージス・アショアを防衛省は当初1基800億円としてきた(17年参院予算委員会、小野寺防衛相・当時)が、レーダー価格の高騰で1基1340億円だの、ミサイルを除けば1240億円だのと猫の目のように金額が変わってきた。最終的には断念に追い込まれたが、今度は代替措置として、設備をタンカーに乗せる、海上石油掘削施設のような施設の上に建造するなどというふざけた案が検討され、いくらかかるか計算できずに事項要求でごまかした。安倍がトランプに購入を約束したことから、軍事専門家も「ミサイル防衛には全く実効性がない」と酷評する中、買うことだけを目的にしている。

攻撃兵器を爆買い

 巨額の予算項目を事項要求にして金額を隠してもなお、軍事費の膨張は隠しきれない。その原因は、「敵基地攻撃能力」を含む、戦争法に象徴される海外派兵関連経費だ。

 最新鋭ステルス戦闘機F35―A(陸上発着)とF35―B(艦上発着)の購入、F35―B搭載のための空母改修、長距離巡航ミサイル開発・購入とこれを搭載するためのF15戦闘機改修とと枚挙にいとまがない。

 しかも、新型コロナ感染症に便乗し、自衛隊大型輸送機に積載する「感染症対策ユニットの開発」に至っては悪乗りもはなはだしい。これは、野外手術システム、救急車の装甲化とあわせ、外征軍展開のための装備だ。

 事項要求でなんでもありの青天井≠フ軍事費は、菅政権が安倍政権に輪をかけたグローバル資本の権益確保のための好戦政権であることを示している。

 新型コロナ禍の下で、命を奪う戦争政策予算が青天井などありえない。辺野古新基地建設、敵基地攻撃兵器の導入即時中止を求め、軍事費を市民の安全・安心に回さなければならない。

医療費抑制はありえない

 新型コロナ禍の下での、市民の安全・安心のために必要なのは、感染症対策と雇用をはじめとする生活対策だ。

 その中心となる厚生労働省概算要求を見ていく。

 医療・保険関連体制は増額しているものの、こちらも事項要求が並ぶ。筆頭は「新型コロナウイルス感染症から国民のいのちを守るための体制確保」だ。

 マスク・消毒薬・ガウンなどの備蓄と医療機関への配布、病室の陰圧化、介護・福祉施設の個室化・陰圧化など院内・施設内感染防止策が並ぶ。市中感染対策では、地域外来・検査センター設置の推進や行政検査・健康保険自己負担分の国費負担、検査試薬の買い上げによる確保が目を引く。これらは、窮状を訴えてきた現場の医療・介護従事者、市民の要求が実現してきたものだ。とはいえ、保険適用検査増は、健康保険料を支払う市民などの負担で賄われることになる。新型コロナ検査は全額国費負担とすべきだ。

 だが、感染症対策の要である保健所の機能強化については、相変わらず「感染症対策専門家の応援派遣、潜在保健師等の人材バンクの創設、感染者情報把握・管理システムの改修」など、小手先の対策にとどまっている。総医療費抑制政策による国公立・公的病院の廃止・統合を断念させ、医師・看護職養成増など正規専門職増員、長時間労働撲滅による抜本的な体制強化への政策転換が必要だ。

生活支援は皆無

 経済的支援策はどうか。

 労働者の休業支援金や雇用調整助成金は、雇用保険で賄われている。コロナ休業≠竍コロナ解雇≠ェ増えていることは1646号で紹介した。悪質な便乗も含めて、解雇・休業がさらに増え求人が激減することは容易に想像がつく。だが、雇用保険特別会計の概算要求額は20年度より減額されている。雇用保険の財源は労使折半とされ、保険料収入の決算は2010年度の2・6兆円から20年度は1・6兆円と1兆円減となっている。一般会計からの国費支出は220億円(1・3%、20年度決算)に過ぎない。雇用を守る金が国費ではなく労使の保険料であってはならない。

 しかも概算要求では、労災保険を含む労働保険特別会計は対前年度比1500億円減だ。

 政府は今年度の緊急経済対策で雇用調整助成金の特例措置に680億円を一般会計に計上し、概算要求でも事項要求とした。だが、同助成金は、雇用保険のうち使用者負担分で賄われるもので使用者への給付の上積みだ。労働者への給付の積み増しではない。労働者の生活保障となる直接給付を目的とした一般会計からの大幅増が必要だ。

経営支援は形だけ

 産業政策をつかさどる経済産業省はもっとひどい。

 政府は今年度、全く不十分ながらも持続化給付金を支給した。だが、現在も小零細・個人事業主は経営難に苦しんでいる。継続した支援が必要だが、新型コロナ対策の直接支援は、経営相談事業のみ。「『新しい日常』に対応するための事業再構築・事業再編支援等」を事項要求として挙げているが、要は大企業への吸収・合併などのM&Aであり、事業継続支援ではない。もたないところは勝手につぶれろ≠ニ言っているに等しい。

 概算要求で感染症対策は前年度に比べれば前進した。だがこれは、本来国が果たすべき防疫対策を労働者・市民の要求の前にしぶしぶ進めたに過ぎない。生活保障については、「自助・共助」の新自由主義政策を相変わらず押しつけている。反面、平和を脅かす軍事費は安倍政権以上の大盤振る舞いだ。

 軍事費を削減し、市民生活に回させる根本的政策転換をかちとる時だ。



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