2020年11月06日 1648号

【非正規差別撤廃へ ここからがスタート/最高裁判決で明暗 前を向く原告たち/郵政勝訴ばねに格差の抜本是正めざす】

 非正規労働者の格差是正を求める3つの裁判で最高裁が異なる判断を示した。原告たちは判決にどう向き合い、何を力に今後の闘いに臨むのか。

 10月13日午後1時半すぎ、大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)でフルタイムのアルバイト秘書として勤務していたMさんが最高裁南門に姿を見せた。

 「最高裁が私たち非正規を見捨てた判決をしました。賞与がゼロでも、年収が新入職員の55%でも、かまわない―国の政策として同一労働同一賃金が進んできたのに、水を差す不当な判決。残念でなりません」

 1時間半後、東京メトロの子会社メトロコマースの契約社員として駅売店で働いた女性たちの判決があった。第一声は「原告の名前を間違えていた。加納一美(ひとみ)です。“かずみ”って何回も言われ悔しい」。もう一人の原告、疋田節子さんは「(高裁判決が支払いを命じた退職金)4分の1も認められない判決は最低。日本の社会は非正規と正規が分断される。最高裁はもっと社会を知れ」と憤る。

モノでなく人間として

 翌々15日午後3時すぎ、皇居側の最高裁正門前に現れた日本郵便契約社員の原告らは、うって変わって晴れやかな笑顔。「郵政で働く非正規の処遇改善を一歩前進させることができた」「非正規社員にも有給の病気休暇は絶対に必要だという一念で裁判に立った。全国2100万人の非正規の一筋ではあれ光になれば」「裁判所がわれわれをモノではなく人間として扱ってくれた」。喜びの言葉がはじけた。

 何が明暗を分けたのか。13日の2つの判決は、賞与や退職金は「正社員(正職員)としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」があるとする。労働者の中に、確保・定着すべき“人材”とそうでない者の2種類がある、という差別・分断の思想が表れている。一方、15日の判決はさまざまな手当・休暇について「契約社員も相応に継続的な勤務が見込まれるなら支給するのが妥当」などと認定した。基本給・賞与・退職金といった非正規労働者差別の根幹には手を付けさせない―それが支配層の意思だ。

 敗訴した原告たちはめげていない。Mさんは記者会見で「アスベスト裁判で最初の裁判は負けたが、裁判を重ねることで少しずつ前進し、最近は国の責任も会社の責任も認める判決に。全国の苦しむ非正規の方、どんどん裁判を起こしてほしい」と呼びかけた。

 メトロコマース事件の疋田さんも「4分の1の価値もない、と奈落の底に突き落とされた」と言いつつ、「支援の人たちに『あなたたちは希望の星』と言われた。希望の星が一番星になるか二番星になるか。これからも活動を続ける」。

正規非正規一丸で闘った

 闘いの方向性を提起したのは、全国一般東京東部労組メトロコマース支部の後呂(うしろ)良子委員長。これからは「同一価値労働同一報酬」だと力説する。どんな仕事も職務評価する。職務を数値化し、比べる。それが世界基準。「勉強を始めたばかりだが、新たな発信の仕方を考え、みなさんとともに闘っていく」

 郵政原告の一人、浅川喜義さんは振り返る。「一番の勝因は、同じ職場で働く正社員の証言が司法に届いたこと。正規非正規一丸となって闘ったことが勝利をもたらした」。同じく宇田川朝史さんは「非正規だからいい加減な仕事をしていい、ということはない。非正規だって責任をもった仕事をしているからこの世の中は回っていると確信する」と力を込めた。

 郵政ユニオンでは、今回勝訴した11人に続いて154人が立ち上がり、裁判を闘っている。日本郵便に対し最高裁判決履行を求める行動も始まった。



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