2020年11月06日 1648号

【学術会議問題で大量のデマ拡散/菅“謀略”政権の本領発揮/まさにフェイクニュース政治】

 「国民のために働く内閣」をさかんにアピールしている菅義偉首相。しかし、その正体は「強権・謀略政権」にほかならない。日本学術会議への人事介入が示すように、自分の意に沿わない者を叩くためなら、フェイクニュースをばらまくことも平気なのだ。

トランプ顔負け

 フェイクニュース政治といえば、米国のトランプ大統領である。新型コロナウイルスに対する人びとの不安を払拭することが再選の鍵を握っているとみて、得意のツイッターを駆使したウソ情報の拡散に拍車がかかっている。

 コーネル大学の研究発表(10/1)によると、トランプは「新型コロナに関する世界一の偽情報拡散機」なのだという。今年1月から5月末までの間に世界中のメディアで発信された新型コロナに関する3800万本の英語記事を研究チームが分析したところ、偽情報を掲載した記事(約110万本)の37・9%にトランプに関する記述が含まれていたというのだ。

 しかも、多くのメディアが情報の真偽を確認していない。ファクト・チェックを行ったメディアは16%だけであった。まさに由々しき事態である。だが、これはトランプの米国だけの現象ではない。フェイクニュース政治は日本でも猛威をふるっている。

 直近の例では、日本学術会議への人事介入問題がそうだ。新会員6人の任命拒否を菅首相は論理のすり替えによって正当化しようとしている。「学術会議は問題だらけの組織であり、政府が統制に乗り出すのは当然だ」というわけだ。

 すると、まるで号令でもかかったかのように、学術会議を攻撃するフェイクニュースが拡散し始めた。実働部隊は、橋下徹、高橋洋一、櫻井よしこ、そして産経新聞に夕刊フジといった、おなじみの面々だ。自民党や維新の会の議員たちも競うように参戦した。

嘘でも何でもあり

 数あるデマの中で最も広く拡散したのは、学術会議が中国の「千人計画」に協力しているという情報である。ネタ元は自民党の甘利明議員(元経産相)のブログだ。「積極的に協力」との記述がまとめサイトなどに引用され、「学術会議は中国の軍事研究に協力している反日組織だ」といった誹謗中傷が広まった。

 だが、甘利のブログは根拠を一切示していない。あたりまえだ。そのような事実などないのだから。学術会議はもちろん、内閣府も完全否定した。すると甘利はブログの記述を「間接的に協力しているように映ります」とこっそり書き換えた。謝罪は一切ない。

 橋下徹の口からでまかせぶりも相変わらずひどい。262万人のフォロワーを持つツイッターで「米国や英国の学者団体には税金は投入されていない。学問の自由を叫ぶ前に、まずはカネの面で自立しろ」などとつぶやいた。

 調べればすぐにばれるインチキだ。米国の科学者団体には年間約260億円、英国でも同様の団体に約65億円の公的資金が投入されている。この事実を指摘した東京新聞の取材に対し、橋下事務所は「現在は一私人としての立場なので、無償でのインタビューには応じていない」と答えた。

 このほかにも、「学術会議の会員は学士院の会員になって年間250万円の年金を死ぬまでもらえる」や「コロナ禍で学術会議は沈黙していた」など、菅応援団や自民党が発信源となったフェイクニュースは枚挙にいとまがない。

 後で訂正されたとしても、これらのデマはすでにネット上を駆け巡っており、完全に否定することは難しい。まさに「言ったもの勝ち」状態だ。そもそも連中は事実関係など気にしていない。攻撃対象の印象を悪くすることができるなら何でもいいのである。

自分の本も改ざん

 今回の任命拒否問題では、菅に認められるためにデマを率先して拡散した連中が大勢いる。安倍晋三前首相に寄生していた御用文化人がそうだし、民主党からの「転向組」である長島昭久と細野豪志(細野は衆院の自民会派に所属)も偽情報を我先に広めた。

 こんな例もある。菅の著書(『政治家の覚悟』文藝春秋刊)の改訂版を出す際に、「政府があらゆる記録を克明に残すのは当然」と公文書保存の重要性を訴えていたくだりが、章ごと削除されたのである。

 文春は「編集部の判断で再構成案を作成し、菅側の了解を得た」と説明する。菅に忖度(そんたく)して都合の悪い部分を自発的に削ったということか。これが本当なら最悪の自己検閲である。

 「逆らう者は痛い目に合う」という恐怖支配をテコに、政権の情報操作に自ら進んで協力するように仕向ける――そうした自発的隷従システムの完成を菅は狙っているのである。(M)

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