2020年11月13日 1649号

【所信表明演説/あくまで「自助」―新自由主義の徹底を表明/グローバル資本のために働く内閣≠ェ鮮明に】

 菅義偉(すがよしひで)首相の所信表明演説は、市民生活切り捨て、グローバル資本支援を前面に打ち出した。新型コロナ禍の中、市民生活の安全・安心を守る抜本的政策転換を迫ろう。

国政の基本に「自助」

 「私が目指す社会像は、『自助・共助・公助』そして『絆』です。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します」。菅首相は、10月26日の所信表明演説をこう締めくくった。

 所信表明演説は首相が国政の基本的方針を示すものだ。その最後に「自助」を基本とする社会への全面転換を促した。行政府のトップが「自分で何とかしろ」と言う。行政運営は本来の法の趣旨を捻じ曲げてでもこの基準に従うようになる。

 例えば生活保護。申請の受理を拒む「水際作戦」はさらに徹底される。「自助努力をしたか。共助努力をしたか」が、運用上の審査基準となる。40歳代となったロスジェネ世代、日雇い派遣で職を転々としなければならなかった非正規労働者。コロナ禍のようなことがあれば、真っ先に路頭に迷う。それでも、自助を強要される。自助できなければ、共助。家族で助け合えと言われ、年金生活の親が背負い込むことになる。その親は、先細る介護保険制度とのはざまで、自らの生活と子どもの生活で苦悩することとなる。そしてぎりぎりの生活を続けたことを証して初めて、公助となる。


始まる投資教育

 ただちに経済的困難に直面していない市民層には将来不安を掻き立てる。年金を削る一方で「老後資金は2000万円必要」と言う。不安に対して準備されるのは資産形成、つまりは、証券・金融業界への利益誘導だ。市民のマネーゲームへのハードルを下げるために2022年から、高等学校家庭科で投資教育が導入される。証券業界には、小学校からの投資教育の必要を言い出す者もいる。

 消費増税をはじめ市民から搾り取った挙句に自助を強要し、なけなしのカネも金融資本に巻き上げさせる。麻生財務相は「一人10万円給付したが、貯蓄に回って消費の効果はなかった。無駄だってことだ」と言ってのけた。社会保障を削りに削った張本人が、不安のただなかにいる市民を国賊∴オいする。

 市民に「自助・共助」を強いるとどめの一言が「絆」だ。新型コロナ下での医療・介護従事者しかり。求めるのは滅私奉公のみ。「ブラック企業」の企業文化のやりがい搾取≠ニいわれる安全無視・低賃金・長時間労働の全体化だ。これが菅が実現しようとする新自由主義が徹底された社会だ。

「脱炭素」も原発推進

 菅が目指す社会には、市民生活の安定は必要ない。所信表明で羅列された政策は、効率的な利潤追求のための社会システムづくりだ。

 新型コロナ対策は「重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化します」。検査と保護、医療態勢の抜本的拡充というまっとうな感染症対策よりはるかに低コストだ。生活補償は、半年たっても持続化給付金など一時金の検討のみ。市民の生活を恒久的に保障する施策は打たない。

 「教育は国の礎(いしずえ)です」としながら、「すべての小中学生に対して、1人1台のIT端末導入を進め、あらゆる子どもたちに、オンライン教育を拡大し、デジタル社会にふさわしい新しい学びを実現」と続く。教育効果が上がり、感染症対策にも寄与する学級定数減に必要な教員増員分の費用と比べれば、はるかに安上がりだ。国費支出は初期費用だけ。運用コストと機器更新は、自治体任せとなるのは従来の教育IT政策から自明だ。しかも「デジタル化」も含め業界への利益供与を兼ねる。

 環境政策も産業振興一辺倒だ。メディアは「わが国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」という宣言を持ち上げる。だが、その手法は成長戦略としての産業構造の転換であり、原発政策の推進だ。その過程の環境負荷は考慮しない。ダボス会議で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが怒りをもってなげかけた「持続可能な開発の幻想」については、一顧だにしない。

 その一方で、世界から環境破壊が批判される辺野古新基地建設は頑なに推進する。新基地建設に象徴されるグローバル資本の権益確保のための軍事費には惜しげもなくつぎ込む。

市民要求を足がかりに

 情報政策もでたらめだ。公文書は破棄・改ざんし、特定秘密保護法で政府情報は出さない。基地など隠したい施設周辺のドローン飛行は制限する。一方「デジタル化」ではマイナンバーカードを軸に市民情報収集の最大化で監視社会を狙う。

 徹底した市民統制の下での新自由主義政策推進による利潤追求への挙国一致体制=Bこれが、菅所信表明演説を貫くものだ。

 菅は「国民のために働く内閣」を繰り返し口にする。だが、その「国民」とはグローバル資本とそれに連なる1%の超富裕層だ。99%の市民は菅の視野にはまったくない。

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 だが、所信表明には、市民の要求に押され譲歩せざるを得ない部分もある。

 待機児童の解消を目指す「子育て安心プラン」を年末までに取りまとめると表明した。であれば、保育士の待遇改善・公立保育所拡充で子どもの権利≠ニしての保育実現を迫ろう。

 また、「新たな男女共同参画基本計画を年末までに策定する」ともした。保育拡充とセットで女性労働者の尊厳と地位向上を保証する実効性ある計画を実現しよう。
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