2020年11月13日 1649号

【ドクター 原発事故による低出生体重児増加】

 原発賠償裁判では被ばくによる健康被害が重要な争点です。これをめぐって、ドイツの統計学者ハーゲン・シェアプ氏と私の共著論文についてご紹介します。

 出生時の体重が2500g未満(低出生体重児)の子どもが福島原発事故の翌年から増加していることを証明した論文です。イギリスの環境保健専門誌に載せてくれそうになりましたが、多くの内容変更の注文がついたところに新型コロナウイルスの流行が重なりました。非常に忙しい中をシェアプ氏のすごいハードワーク≠ナ7月、原子力ムラの厳しい防壁を突破して掲載されました。

 低出生体重児は赤ちゃんの死亡率に関係します。出生時2〜2・5kgの子は3〜4kgの子と比べて新生児期の死亡率が8倍、1・5kgでは50倍にもなるほか、多くの小児の病気に関連します。簡単に測定できるためWHO(世界保健機関)は母子保健の状態を評価する主要な指標にしています。

 低出産体重児の割合は、強い放射能汚染があった福島・宮城・茨城・栃木・岩手の合計では2011年に前年度より約5・5%増加、中等度の山形・埼玉・東京・神奈川・千葉で約2・1%増で、増加は2018年まで続いています。その他の道府県では明らかな増加は見られませんでした。

 国連報告や論文から全都道府県の放射能汚染度を推定して、初めて汚染度と低出産体重児の増加の関連を計算しました。その結果、放射線1マイクロシーベルト/時間(8・8_シーベルト/年)で低出生体重児は10%も増加することが分かり、また、増加した地域での増加合計人数は約6800人にも上りました。

 増加した低体重児は放射能の影響を受けているのですから、病気を持っていたり、今後病気となる可能性も高いことが推察されます。

 この論文は、環境医学の専門家の非常に厳しい批判的検討を受けた末に掲載が決まったものです。ところが、さっそく京大大学院医学研究科の人たちから、的外れだったり推計の結果を薄めるためのような指摘が専門誌の編集部に届き、これに対しシェアプ氏が私の意見も取り入れた反論を書いてくれ、9月29日、その掲載が決まりました。

 この論文が福島県やその近隣から避難した方々の選択が正しかったこと、低線量被ばくでも生殖に関する明らかな障害が生じることへの市民の認識を高め、原発廃止の一助になれば幸いです。(筆者は小児科医)
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