2020年11月13日 1649号

【「大阪都構想」再び否決/市民の良識、デマに勝つ/民主主義を機能させた地域からの闘い】

 大阪市を廃止し4つの特別区に再編することの是非を問う住民投票は「反対」が多数となった。市民の良識が「大阪都構想」の実現をぎりぎりのところで阻んだといえる。「維新」のデマ作戦は世論に大きな影響を及ぼしたが、地域からの反対運動がその貫徹を許さなかった。

 11月1日に行われた住民投票の結果は「反対」69万2996票が「賛成」67万5829票を上回り、「大阪都構想」は否決された。大阪市民の良識が大量デマ宣伝に勝ったのだ。日本の住民運動史上において特筆すべき勝利である。

 といっても、渦中の大阪市民以外はピンとこないだろう。そこで、この住民投票がどのような状況下で行われたのか、確認しておきたい。松井一郎市長率いる「維新の会」が行政機関をも使って繰り広げた虚偽宣伝は常軌を逸していた。


「維新」の隠蔽工作

 「都構想」の目的は「大阪市が持っている権限、力、お金をむしり取る」(橋下徹・元大阪府知事)ことにあった。大阪府に権限と財源を集中させれば、大企業本位の大規模開発を進めやすいという発想だ。

 政令指定都市である大阪市を廃止し、4つの特別区に格下げするということは、市民にとっては自治権と自主財源の放棄を意味する。住民サービスの低下も確実だ。この事実を隠蔽するために「維新」は嘘に嘘を重ねてきた。

 府市の共同部署「副首都推進局」が作成した説明パンフレットは「都構想のメリット」一色。「推進に偏りすぎている」という市特別参与の指摘に対し、広報担当幹部は「賛成に誘導するためにやっている」と開き直った。

 住民投票の名称にまで松井市長はクレームを付けた。選挙管理委員会が「大阪市を廃止し特別区を設置することについて」と明記したことに対し、「大阪市の廃止ではなく、大阪市役所の廃止とできないか」と注文をしたのである(さすがにこれは実現しなかった)。

試算報道に圧力

 選挙戦最終盤には「誤報」騒動が起きた。「大阪市を4分割ならコスト218億円増/都構想実現で特別区の収支悪化も」と報じた毎日新聞の記事(10/26夕刊)を「維新」がねつ造よばわりした一件だ。

 記事の内容は「大阪市を4つの自治体に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト『基準財政需要額』の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになった」というもの。

 取材に対し、市財政局担当者は「都構想の4特別区の行政コストが今回の試算と同額になるとは限らないが、デメリットの一つの目安になる。財源不足が生じれば、行政サービスの低下につながる」と答えている。

 この報道に「維新」陣営はキレまくり、毎日新聞や他のメディアの続報を「大誤報」などと攻撃した。松井市長は財政局長を「公務員がやるべきことではない。ねつ造にも等しい」と叱責。緊急会見を設けて「試算は虚偽でした」と言わせ、撤回させた(10/29)。

 特別区の財政見通しについては、松井市長が「いちいち言う必要はない」と試算を拒み続けた経緯がある。議論に必要な資料を提供しただけの部下を恫喝し、さらし者にするとはパワハラ以外の何ものでもない。民主主義や人権尊重と相容れない「維新」の体質があらわれている。

知れば知るほど反対

 京都大学レジリエンス実施ユニットが行った大阪市民へのアンケート調査(10/21〜10/25実施)によると、「都構想」の基本的な知識について「正確に知る市民ほど反対意向が強くなることや、都構想賛成派の市民ほど誤った認識を持っているという実態」がみてとれたという。

 たとえば、賛成派市民の多くが「二重行政の解消効果」を過大評価していた。これは橋下時代に流された「年間4000億円以上の歳出カット」という嘘の影響と思われる。このように、広まったデマを打ち消すことはきわめて難しい。

 しかし、不可能ではなかった。選挙戦が進むにつれて、「都構想」のメッキが剥げていったのである。世論調査では「賛成」が一時は10ポイント以上リードしていたが、その差は次第に縮まり、投票日1週間前の段階でほぼ並んだ。

 逆転劇の原動力は何といっても大阪市解体阻止に立ち上がった人びとの存在である。地域からの粘り強い反対運動が市民本来の批判的志向性に訴えかけ、「維新」の集団催眠戦法の貫徹を許さなかったのだ。

菅政権にダメージ

 朝日新聞の出口調査によると、いわゆる無党派層の61%が「反対」に投票した(前回の住民投票は52%)。今回、賛成に回った公明党の支持層は賛成・反対が拮抗した。吉村洋文府知事の人気と公明党の組織票で勝利は固いと踏んだ「維新」の思惑は外れた。

 大量デマ宣伝や「上が決めたこと」を鵜呑みにせず、自らの理性にもとづき自律的な判断をした市民が大勢いた。このことに私たちは希望を持っていい。あきらめずに行動すれば、民主主義は機能するのだ。今回の経験は「維新」支配を終わらせる闘いを進める上で大きな力となろう。

 そして、大阪での勝利は菅政権の新自由主義路線・改憲戦略に痛打を与え、全国で闘っている人びとを励ました。「維新」の後ろ盾は菅義偉(すがよしひで)首相であり、恐怖政治とデマ宣伝という支配の手法も似通っている。それが絶対的な強みではないことを示したのだ。

 「維新」の看板政策は否定された。だが、「改革」幻想が払拭されたわけではない。今こそ、新自由主義路線と決別する住民本位の街づくり政策を打ち出すことが必要だ。人びとはそれを望んでいる。  (M)

 
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