2020年11月20日 1650号

【Q&A 労働者協同組合法案とは 組合員が自ら作り働く協同組合へ】

 労働者協同組合法案が今臨時国会で成立する見通しと言われています。どのような内容ですか。また、制定の意義は何でしょうか。

出資・意見・従事が一体

 労働者協同組合法案は、与野党全会派の賛同による議員立法として、前通常国会に提出されました。労働者協同組合とは、出資・意見反映・従事が一体となった非営利組織。それを簡便に設立できるように定めた法律が労働者協同組合法案です。臨時国会で審議されれば、全会一致で成立する見通しです。

 現在、農業や漁業、林業などの事業主、消費者が主体となった協同組合の個別法がありますが、これらは国家による事業活動の管理・統制が主目的の法律。日本には、欧米では一般的である、労働者が自主的につくる協同組合のための法律はありません。

 法案は、(1)組合員が自ら出資(2)組合員の意見を反映して経営(3)組合員が事業に従事―と基本原理を規定しています。そして、組合と組合員(従事者)との間で労働契約を締結し、最低賃金などの労働法規の遵守が明記されています。

 これは、10年前、提出直前にまでこぎつけた時の法案内容が「低賃金、長時間労働、やりがい搾取に悪用され、労働者保護を逸脱する可能性がある」との指摘によりいったん棚上げになった経過から、組合員の労働者性を明確に定める必要があったためです。

 労働者協同組合に類する事業体は現在、他の法人格を活用しながら主に福祉の分野で地域のニーズに対応した介護・福祉や子育て支援などに取り組んでおり、すでに約10万人の就労者がいます。しかし、企業組合を設立するには都道府県知事の認可が必要なため手続きに時間がかかり、NPO法人には組合員による出資が認められず、業種も福祉や観光振興などに限られています。そのため、とくに資金面での経営基盤の脆弱性から行政の委託事業への参入が厳しい等の課題が指摘されてきました。

 労働者協同組合は、組合員の出資、届出の簡便な手続きで設立が可能で、労働者派遣事業以外どんな業種の仕事もできます。地域の要望に沿った、やりがいを感じられる仕事を労働者・市民が自ら作り、主体的に働く仕組みができるのです。

 法案は、地域のニーズに応える事業運営を積み重ねてきたNPO法人やワーカーズコレクティブの実践例、国際協同組合同盟(ICA)の理念が反映された先進的な内容となっています。

国際的にも先進的内容

 第一に、設立手続きが、要件を満たせばただちに認められる「準則主義」であること。一般の会社同様に「届出」により簡便に設立できるようになっています。

 第二に、「労働者性」と「所有者性」の二重性を解消したこと。労働者は雇われなければ労働法が適用されません。法案では、組合による労働法規の遵守を明記することで労働者性をきちんと担保し、労使契約があるとしています。また、労使契約を結ぶ相手、つまり組合や代表理事を自分たちで選ぶという仕組みを規定しています。このように、労働者協同組合の主体者の二重性(経営者であり労働者である)の課題を解消している法律は、世界の労働者協同組合法の中でも珍しいとされています。

 第三に、ILO(国際労働機関)が掲げた目標「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」や国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」の内容が法律の中に書き込まれていることです。

 法案の成立は、国内外の協同組合運動にとって積極的な意義があります。

労働者・市民が主人公に

 一方で、新自由主義による福祉切り捨てが進行する中で、例えば病児保育や引きこもり支援のような福祉行政が果たすべき内容を事業体に業務委託などで補完させようという狙いがあります。また、「働き方改革」の名で副業・兼業に悪用される危険性もあります。

 今後、日本で新たに誕生する労働者協同組合が、行政とのタイアップなども通じて自治的な民主主義や合意形成を地域にひろげ、どのように地域行政を変革できるかが問われています。地域の需要があるのに担い手がいない事業や、本来、行政が責任を持つべき福祉事業を、市民や労働者が担うのであれば、公的な助成はあって当然だからです。

 労働者協同組合法を活用して労働者・市民が中心となる職場・地域をひろげよう。法律は活用してはじめてその意義を発揮します。

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