2020年11月20日 1650号
【未来への責任(310) 産業革命遺産の真実を広げる】
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「明治日本の産業革命遺産」の情報発信のための施設として産業遺産情報センターが6月に一般公開された。しかし、「軍艦島では強制労働も朝鮮人差別もなかった」とする軍艦島の元島民の証言だけがクローズアップされた施設展示内容には、朝日新聞が社説で「世界遺産対立 負の歴史見つめてこそ」と取り上げるなど、マスコミからも批判が巻き起こった。
日本政府はこの展示のための調査研究費を4年間で4億9351万4千円、センターの開設・運営費として4億4220万円を一民間団体である産業遺産国民会議に支出していた。まさに公金を使って「強制連行はなかった」とする歴史改ざんを助長したのである。
そこで、明治産業革命遺産の真実≠広く知らせるため、10月18日、強制動員真相究明ネットワークが札幌から九州までオンラインで結ぶ集会を開催した。
集会では、ネットワークの竹内康人さんが、軍艦島に強制動員された崔璋燮(チェジャンソプ)さんをはじめ、三池炭鉱、長崎造船所、八幡製鉄所で強制労働させられた朝鮮人、中国人、連合軍捕虜の証言も紹介しながら明治産業革命遺産にかかわる強制動員者数が朝鮮人3万人、中国人4千人、連合軍捕虜が5千人に及ぶことを示した。
民族問題研究所の金丞垠(キムスンウン)さんも、韓国の強制動員真相究明委員会に残された12人の被害者の記録から、いずれも10代20代の若者が朝鮮各地に割り当てられた動員数を充たすため露骨な懐柔と脅迫、時には警察官が連行するなどの手段によって強制動員され、過酷な炭鉱労働などに従事させられた事実を明らかにした。
岡まさはる記念長崎平和資料館の新海智広さんは、「朝鮮人を差別し人間として扱わない現場を実際に目にした」との元島民の証言を紹介した。長崎の中国人強制連行裁判を支援する会の平野伸人さんは、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)が長崎の3つの炭鉱(端島・高島・崎戸)に強制連行した3765人の中国人被害者と2016年に和解したことを取り上げ、企業がその気になれば強制動員問題解決も可能であることを示した。
大牟田の城野俊行さんは「三池炭鉱では囚人労働、与論島の人々への差別、強制動員があった。これらを人権問題の学びの場として世界に発信しなければならない」と述べ、産業革命遺産が真に世界遺産として価値を持つためにも各遺産の「全体の歴史」を明らかにすることの重要性を指摘した。
明治産業革命遺産は、政治的対立や歴史認識論争のレベルを超えて、私たちが未来に何を残すべきかを問うている。
(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)
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