2020年11月27日 1651号

【種苗法改悪急ぐ菅政権 グローバル農業企業の高収益構造に道を開く】

 臨時国会で政府が、成立を最も急いでいるのが種苗法(農産物の新種を開発した場合の栽培の権利〈育成者権〉等を定める)の「改正」案だ。女優の柴咲コウさんなどが法案に反対を表明、話題になった。継続審議だったが、11月11日審議入りし17日には衆院農林水産委員会で可決された。

「海外流出防止」を名目

 種苗法「改正」のきっかけを作ったのは、2018年2月の韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪だった。カーリング日本女子代表チームのメンバーが現地で食べていたイチゴが、後に日本から持ち出され改良された品種であることが判明する。「現行制度では日本が開発した種苗の海外流出を阻止できない」として種苗法「改正」を求めるキャンペーンが政府、経済界から始まった。

 種苗の品種を開発した場合、国に品種登録を申請し、審査の結果新品種と認められれば登録され「育成者権」が与えられる。政府案は、育成者権を持つ者の許可なく登録品種を使用した場合、罰則を設けるなど「保護」を強化するものだ。

 現在の制度では、農家は購入した種子を自分の農地で栽培し、増やすこと(自家増殖)が自由にできる。しかし政府案が成立すれば育成者権者の許可が必要になる。育成者権料(許諾料)が引き上げられた場合、農家が栽培をあきらめなければならなくなるのではないかとの懸念がある。著名人をはじめ、多くの農家が反対する理由のひとつだ。

零細農家には死活問題

 政府・農林水産省は「全体から見れば登録品種はわずか。それも育成者権者の許諾を得れば済む話であり大半の農家には影響はない」として法案成立を急ぐ。だが、コメでも自家増殖が禁止される登録品種は農水省の説明よりも多いと全国農民運動連合会は批判する。

 また、果樹など今後、高収益が見込まれる品種には企業が育成者権者であるものが多い。利益拡大をめざす農業企業が、育成者権料を引き上げることは十分予想される。「苗の購入経費が増えれば死活問題」(茨城県のイチゴ農家)との声も上がる。零細農家ほどその影響が深刻であることは言うまでもない。

 育成者権は、特許などと同じ知的財産権のひとつで30年間有効。だが、巨額の資金を持つ海外の国際農業資本には、育成者権料の引き上げ程度では対抗できず、流出は止まらない。国際競争は国内零細農家を直撃し生産基盤は破壊される。

政府案は廃案だ

 コロナ禍で外食需要などが落ち込み、苦しんでいるのはどの農家もかわらない。ところが、菅政権は富裕層をターゲットにした果樹など「高収益作物」農家だけに補助金を交付し手厚く保護する。育成者権者に企業が多い分野優先なのだ。

 種苗法改悪は、菅が口にする「農業改革」=グローバル企業の意向に沿った農業構造に作り替えていく動きと一体のものだ。しかも中国、韓国への排外主義をあおる形で進められている。農家の怒りは当然であり、政府案は廃案しかない。 
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