2020年11月27日 1651号

【「学術会議問題」の傷口ふさぐ/政府の印象操作とうんざり作戦/いま声を上げないと次は自分】

 日本学術会議の任命拒否問題で就任早々つまづいた菅義偉首相。しかし、政権のピンチにまでは至っていないことを世論調査の結果は示している。御用メディアの協力を得たダメージコントロール、すなわち「印象操作」と「うんざり作戦」の手口をみていこう。

 JNNの世論調査(11/7〜11/8実施)によると、菅内閣の支持率は66・8%で、先月の調査より3・9ポイント減った(不支持は4ポイント増の28・2%)。日本学術会議が新会員に推薦した学者6人の任命を菅首相が拒んだ問題では、説明が「十分だ」と答えた人は21%にとどまり、「不十分だ」が56%に達した。理由を明らかにしない首相の態度が支持率低下の一因となったことは間違いない。

 しかし、政府が進める学術会議の見直しには66%が賛成しており、反対14%を大きく上回った。読売新聞の調査(11/6〜11/8実施)では、学術会議を行政改革の対象にすることを「評価する」意見が70%に上昇した。1か月前の調査より12ポイントも増えたのだ。

 「学術会議にも問題がある」との印象を与え、任命拒否の正当化を図る作戦には効果があったということだ。自民党議員やネトウヨがわめくだけではこうはならない。やはり、メディアの協力が大きかった。

「反政府運動」と報道

 たとえば、「官邸、反政府運動を懸念し6人の任命拒否」という共同通信の配信記事だ(11/8付)。複数の政府関係者の話として、「会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが7日、分かった」と報じた。

 反政府運動とは、まるで6人が国家転覆をたくらむ輩であるかのような印象を与える表現である。映画評論家の町山智弘は「政府を批判すると『反政府運動』にされてしまう時代、ついに来ました」と皮肉った。

 記事本文にはない「反政府運動」という言葉を見出しに用いたことについて、法政大学の上西充子教授は「政府の判断は常に正しい、それに異を唱える者は政府に歯向かうやつだ。そういう認識を政府関係者と共有していなければ出てこない表現だと思う」と指摘した。

 こうした批判が相次いだせいか、「共同」は記事を削除し、配信し直した。修正後の見出しは「官邸、『反政府先導』懸念し拒否」。「反政府」はどうしても外せないらしい。

 この記事のネタ元は「複数の政府関係者」である。公安警察出身の官邸官僚(親玉は杉田和博官房副長官)が書かせたのか、あるいは首相補佐官に抜擢された柿崎明二(共同通信社前論説副委員長)が古巣に頼んだのか。いずれにせよ、官邸主導の印象操作であることは間違いない。

批判を野党に向ける

 もう一つの手口は「うんざり作戦」である。質問にまともに答えない不誠実な答弁をくり返すことによって、世の人びとに「この話はもういいよ」と嫌気を抱かせるテクニックだ。「不毛な議論をまだくり返すのか」と、追及する野党議員に批判の矛先が向かえば、しめたものである。

 この作戦もまたメディアの助けがなければ成立しない。落語家の立川志らくは「ほかにコロナとか優先すべき問題があるじゃないですか。野党は何で、こんなことをしているんでしょう」と嘆いて見せた(TBS系『グッとラック!』11/9放送)。御用司会者の模範回答といえる。

自分の問題として

 SNSにおける学術会議問題への言及数はピーク時の約15%に減っている(11/9現在)。世間の関心が薄れつつあるのは、「学者の人事なんて自分の生活と関係ない」と感じている人が多いからであろう。

 こうした空気に危機感を抱く映画人有志が“自分の問題として捉えよう”という趣旨の声明を発表した。「この問題は、学問の自由への侵害のみに止まりません。これは、表現の自由への侵害であり、言論の自由への明確な挑戦です」

 声明文に引用されたマルティン・ニーメラー(ドイツの牧師で反ナチス運動の指導者)の警句を本稿でも使わせてもらう。

 《ナチスが共産主義者を攻撃し始めたとき、私は声をあげなかった。なぜなら私は共産主義者ではなかったから。次に社会民主主義者が投獄されたとき、私はやはり抗議しなかった。なぜなら私は社会民主主義者ではなかったから。労働組合員たちが攻撃されたときも、私は沈黙していた。だって労働組合員ではなかったから。そして彼らが私を攻撃したとき、私のために声をあげる人は一人もいなかった》

 「おかしい」を「当たり前」にしないために、いま声を上げる時だ。 (M)

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