2020年12月04日 1652号

【菅政権が狙う「学問・芸術への国家統制」/沖縄の彫刻家 金城実さんに聞く/民衆の側に立つ者への弾圧】

 大阪で行われた団結まつり(11/15)に参加された沖縄の彫刻家・金城実さん(82)にお話をうかがった。国家権力による表現の自由への弾圧、歴史認識、沖縄が強いられた構造的な貧困など、話題は多岐に及んだ。(編集部の責任で構成しました)

弾圧の歴史は語る

 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を菅(義偉首相)が拒否した。その意味は歴史が語っておるわな。国家権力は戦前、戦中、戦後を通じて、民衆の側に立つ研究者、学者、芸術家を弾圧することにおいて、まったく手を緩めていないということや。

 去年は「あいちトリエンナーレ」で、「慰安婦」像(平和の少女像)の展示中止事件が起きた(*1)。河村たかし(名古屋市長)たちが「日本人の心を踏みにじる」とか「あれは芸術じゃない」とか「税金を使って左翼のプロパガンダをするな」とかぬかして、撤去を迫った。

 新聞で事件を知り、カッときた。で、その日のうちに木彫りの「慰安婦」像の制作に取りかかった。なぜカッときたか。金城実の頭の中には、芸術・文化活動に向けられた弾圧の歴史が入っているからね。芸術が政治に飲み込まれて沈没していく過程、美術家が戦争協力に組み込まれ、若者たちを戦争に駆り立てる役割を果たしたこと、連中が戦後どんな逃げ方をしたのか、ということも。

 あちこちの公園に、裸の女に鳩を持たせて「平和と自由」を表現した気になっている彫刻やモニュメントがいっぱい立っとるやろ。自分がなぜ戦争に荷担したのかという反省がひとかけらもない。時代に合わせて生きていくわけや。

 大体、大方の日本人は歴史を軽視している。「水に流そう」という言葉があるやろ。日本人の精神性がよくあらわれている。安倍晋三(前首相)もそうだが、権力の側が「いつまでも過去にこだわらず、前向きに考えよう」とぬかしおる。民衆はそういうわけにはいかん。過去の歴史、残酷な歴史を学ばなければいけないというのが、金城実の沖縄人としての理論なんや。

 沖縄に対しても言いたいことがある。「学習能力はありますか」って。百田尚樹(作家)やネット右翼が振りまく見え透いた嘘、フェイクニュースにだまされるようではいかん。

 今ね、国会中継を見ていて恥ずかしくなるよ。質問にまったく答えていない。カレーライスの注文を受けたのにうどんを出すようなもんや。これが安倍だ。その後を継いだ菅は、はぐらかし。小手先のごまかしばっかりだ。

 日本の政府は軍事費にはカネをかけるが、教育にはカネを出さん。国家にカネを落とす者だけを大事にして、そうでないものは大事にしない。抹殺するような政治をする。徹底的に闘わんといかん。抵抗しないと見えない道がある。

根底にある貧困

 えー、何の話やったかな。チビチリガマを荒らした少年たちの話をしようか(*2)。また右翼の仕業かと疑ったが、逮捕されたのは16〜19歳の沖縄の少年4人。SNSで知り合い、「心霊スポットで肝試しをしよう」と集まった。そいつらが骨壺まで壊しおった。

 保護観察処分を受けた彼らの保護観察者になってほしいとの依頼が裁判所から来た。遺族会の会長に相談すると、「いいじゃないですか。まだ子どもですし。大人が向き合うべきでしょう」。その一言に促され、関わることになった。

 手ごわい野郎もいたよ。育児放棄され、里親に育てられたそいつには、自分が捨てられたことへの恨みつらみがあった。妻子がいたが、「離婚したから、もう妻でも子どもでもない」とぬかしおる。

 「これが児童虐待や育児放棄の連鎖か」と実感した。事件当時、4人のうち3人が無職状態。根底には貧困があるということや。日本政府はこういう連中にカネを出さない。出す値打ちがないと思っている。

 けどね、こいつらは沖縄の将来を支える大人になっていく。何も勉強が出来る優等生だけが社会を支えているんじゃない。彼らもいずれ沖縄を背負って立つ。俺も沖縄人であることに誇りを持っている人間だからね。真剣に向かい合わんと後悔すると思った。

 マニュアル的な「更生」活動、空き缶拾いをさせるとかでは話にならない。3つの課題を出した。チビチリガマと沖縄戦のレポート、「平和の像」の修復、そして野仏の制作。野仏は、遺族会の会長らと一緒にセメントをこねて12体つくり、チビチリガマの周りに置いた。「君たちはガマの中から絶えず見られているぞ」という意味よ。

人間の姿が見える表現

 「慰安婦」問題の背景にも貧困がある。俺の従姉は小学校を卒業してすぐに3年分の借金を前借りして糸満に身売りされた。戦後は米軍相手の娼婦よ。その従姉が一族で初めて大学に行った俺にカネを握らせて言うわけや。「実よ、あなただけが私の希望だ」と。今でも涙が出るよ。

 沖縄でも、日本でも、朝鮮でも、貧困から抜け出すために女性が体を売らざるを得なかった構造的な差別が歴然とあった。今もそうやろが。コロナ禍で仕事を失い途方に暮れるシングルマザー、学校を辞めざるを得ない若者が大勢いる。そういう人たちの痛みを政治家どもはわかっとらん。

 あんたらの新聞は大好きだからよく読んでいる。いい新聞だ。安倍や菅を徹底的に叩いているところを評価している。

 ただ、一読者として言わしてもらうと、「新自由主義」や「グローバリゼーション」の批判がいまひとつわかりにくい。貧困にあえぐ母ちゃんや子どもたちの姿が見えて来ないのよ。育児放棄、児童虐待、自殺とグローバリゼーションがどういう関係があるのか。書いてはいるんだが、うまくつながっていない。

 芸術と同じでね、人間の姿が見えてくるような文章が必要なんですよ。苦しんでいる母ちゃんたちに対しても説得力がある――そんな記事を期待している。

*1 国内最大の芸術展「あいちトリエンナーレ2019」において、日本軍「慰安婦」問題を象徴する少女像などの作品が、政治家の圧力や右翼の脅迫を受け、一時展示中止に追い込まれた事件。

*2 2017年9月、沖縄戦を象徴する強制集団死が起きたチビチリガマ(読谷村)が荒らされた。「チビチリガマ世代を結ぶ平和の像」は金城さんが強制集団死の遺族と共同制作したモニュメント。



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