2020年12月11日 1653号

【「コロナ対策最優先」はどこにいった/命よりカネもうけの菅政権/社会的検査を制度化せよ】

 新型コロナウイルス感染症患者が報告されてから1年になる。世界では11月末までに6千万人以上が感染し、145万人以上が死亡した。日本でも感染者14万人、死者2千人を超えた。医療崩壊を指摘する声は日増しに大きくなっている。だが菅政権は感染対策を放棄したというしかない無策ぶりをさらしている。あらためて命が最優先の原則にたち、政府・自治体に抜本的な検査拡充を要求しなければならない。

医療崩壊の危機

 新型コロナについて「インフルエンザ程度のもの」とその危険性を軽視する言説は今も存在する。当初に比べ、病状が急変し死に至る事態は少なくなっているが、インフルエンザと同程度と言うことはできない。感染者のどの程度が死に至るのかを比べれば、コロナは2桁ほど高い(表)。少なくとも20倍以上だ。

 コロナ感染の急拡大は、他の病気の治療にも支障が生じ医療崩壊につながる意味でも放置できない。特に重症患者用病床は逼迫している。全国で最も重症患者が多くなった大阪府は11月24日、重症患者103人に対し病床206、使用率は50%と公表した。だが、すぐに使える病床は130しかなかった。コロナ用に常に空けているわけではなく、他の病気の患者を受け入れているためだ。病床は空いても専門スタッフがそろわない場合もある。実際の使用率は80%にもなる。

 厚生労働省の専門家組織(脇田隆字座長)は「通常の医療で助けられる命が助けられなくなる」(11/24)と強い危機感を表明した。経済学者も加わった政府の新型コロナ分科会。その尾身茂会長でさえも「個人の努力に頼る段階は過ぎた」(11/27衆院厚生労働委)と政府の無方針に苦言を呈した。

公的責任の放棄

 そんな危機感は政府にはない。菅はGoToトラベル全面見直しに抵抗を続けている。GoToの影響は侮れない。菅のいう「4千万人が利用」を事実だとすれば、人口の3分の1が日常圏外に動いたことになる。ウイルスの拡散が生じないわけがない。GoTo起因に限らず、そもそも感染実態を正確に把握するには、できる限り広く多くの人を検査する必要があるが、政府にその気はない。

 厚労省は9月4日、インフルエンザ同時流行に備えるとして、新型コロナの連絡先を「保健所(外来・接触者相談センター)」から「かかりつけ医」に改める事務連絡を自治体に出した。

 だが「かかりつけ医」は電話を受けるだけではない。検査するには感染予防の準備がいる。検査態勢がなければ他の機関の紹介、陽性が判明すれば入院先の調整など、保健所が行うべき業務を丸投げされることになる。まして感染経路把握、濃厚接触者対応など代行できるわけがない。さらには、保険診療中心とすることで国の財政支出を抑える狙いもある。「かかりつけ医」への窓口変更は、公衆衛生、公的医療責任の放棄としかいいようがない。




すべての職場で必要

 今強く求められているのは、医療・介護や公共交通機関など社会生活を支える必要不可欠な労働に就く人びと(エッセンシャルワーカー)の感染拡大を防ぐための検査だ。

 厚労省は、「高齢者施設等への重点的な検査の徹底について」(11月19日)の文書を自治体に送った。発熱等の症状がある入所者、スタッフの検査を必ず実施し、陽性者が出れば全員の検査を実施するよう促している。事業者が行った自費検査も補助対象とし、自治体が施設の要請に応えず検査をしない場合は厚労省が指導に入ると記している。

 この文書は、「発熱等の症状があった場合」としている点で、拡大予防的な検査とは言えないが、関係者全員を検査対象としない実態がある中で、是正させる足掛かりにできる。

 一方、一部自治体は検査対象を広げはじめた。東京・世田谷区は10月以降、拡大防止の観点から「社会的検査」を実施。介護事業所や障害者施設、児童養護施設、保育園などの職員、特別養護老人ホーム入所予定者などに対し、症状がなくても定期的に検査を行っている。ある特養老人ホームの検査では、陽性者15人が見つかった。いずれも無症状だった。「重大になる前に、未然に防ぐことができた」と保坂展人区長は拡大防止効果をアピールする。

 沖縄県は医療施設、介護施設の従事者約4万人を対象に来年1月から3月まで、月1回定期的に検査を行うための予算案を議会に出した。玉城デニー知事は「医療・介護施設におけるクラスターの発生を未然に防ぐため、エッセンシャルワーカーに戦略的なPCR検査を実施する」と述べる。他にも社会的検査の実施に踏み出す自治体は増えている。

 社会的に必要不可欠なサービスを提供する労働者の安全を保証するために定期的に検査を行うことは、ごく当たり前のことだ。労働者の安全と健康を守ることを目的とした労働安全衛生法は「事業者は、…職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と定め、労働者の定期健康診断などを義務付けている。その延長である。

 社会的に不可欠な労働に限らず、コロナ下で業務を続ける事業所は当然、定期検査を実施すべきだ。クラスター発生個所のに占める“職場”の比率が高まっていることからも、必要性は増している。

   * * *

 菅政権の最優先課題だったはずのコロナ対策はまったく何もない。先行する自治体に見習い、どの自治体でも社会的検査に取り組めるよう制度を整えるべきだ。全額国費は言うまでもない。

 あわせて発見・追跡、保護・隔離、治療という感染症対策の基本的機能を強化しなければならない。菅は「保健所支援に1200人の要員を確保した」というが、一時しのぎであってはならない。GoToトラベル1兆円超の予算を含め、使途が決まらない7兆円を超える予備費を保健所や医療機関の支援強化に使え。待ったなしだ。

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