2020年12月18日 1654号

【コラム見・聞・感/安倍・菅・河野が一体で推進した農協改革の惨めな結末】

 菅政権発足後、安倍政権時代より一層純化した形で打ち出された新自由主義政策。その末路を暗示する興味深い出来事が北海道で起きた。

 牛乳や乳製品は賞味期限が短い「生もの」であるため長期保管が困難だ。飲用やアイスクリーム需要が高まる夏、クリスマスケーキ需要が高まる冬に需要が集中する。一方で、牛が出す乳量は一定のため需給調整も難しい。ここ数年、クリスマスのたびに繰り返された「バター不足」騒動をご記憶の方も多かろう。

 生乳の持つこのような特殊な性質に対応するため、酪農家から生乳を集荷、流通させる業務は今も「指定団体」がほぼ独占している。指定団体は農協であり、集荷した牛乳をバターやチーズに加工して冷蔵保管するなどして、需要の季節変動に応じて供給量を調節してきた。

 首相官邸に置かれた規制改革推進会議は、「バター不足」などの原因が指定団体制度にあると根拠もなく決めつけ、一方的に制度廃止を前提とした議論を2016年に始めた。旗振り役は河野太郎規制改革担当相(当時)。生乳流通規制問題を担当する「農業ワーキンググループ(WG)」の専門委員には本間正義・西南学院大経済学部教授も名を連ねる。この本間は「これからは輸入で食料安全保障を確立する時代。日本に農業はいらない。食糧自給率などゼロになってもいい」と言い放った農業破壊論者だ。

 農業WGの議論の進め方も初めに結論ありきの乱暴なものだった。全国に組織を張りめぐらせている農協関係者で意見聴取に呼ばれたのは北海道のホクレンだけ。生乳流通に新規参入を狙うMMJ社(群馬県、茂木修一社長)やその関係者ばかりが指定団体制度「廃止」を結論づけるために次々と意見聴取される一方的な会議運営だった。ほぼ同時期にテレビ番組「ガイアの夜明け」がMMJを成功事例、農協を抵抗勢力と描き出すなどメディアも加担した。

 農協などの奮闘で指定団体制度は残ったが、需給調整への協力の替わりに指定団体に支払われていた補助金を、MMJは需給調整に協力せずとも受け取れるようになった。だがMMJは2019年11月、生乳への「異物混入」を理由に集荷を停止。一部酪農家が生乳廃棄に追い込まれた。新自由主義的農協「改革」にふさわしい結末だ。(水樹平和) 
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