2020年12月18日 1654号

【「人類がウイルスに打ち勝った証し」だとよ/まだやるつもりかオリンピック/税金は医療体制の整備に回せ】

 新型コロナウイルスが猛威をふるう中、政府は「不要不急の外出」を自粛するよう呼びかけている。しかし、「不要不急」の最たるものである東京オリンピック・パラリンピックについては、何が何でも開催する気でいる。よほどカネが大切らしい。市民の命や健康よりも。

コロナ禍の中で

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が先月来日し、菅義偉首相と会談した(11/16)。菅首相は「人類がウイルスに打ち勝った証し」として、予定どおり来年7月に大会を開催すると述べ、バッハ会長も「決意を共有する」と語った。

 第三波の感染拡大に苦しめられている市民の感覚とあまりにズレている。いま世界のどこにコロナ禍に「打ち勝つ」兆しがあるというのか。ワクチンが「切り札」だと考えているのなら、それは戦時中の神風待望論と同じことだ。

 大会延期にともない、新たに負担が必要な費用は総額2940億円。このうち政府が710億円、東京都が1200億円をそれぞれ負担する。「税金の使い道はそこじゃない。まずコロナ対策(特に医療体制の整備)だ」と、誰もが思うことであろう

 しかし、GoToおじさん(菅首相)は聞く耳を持たない。「GoToオリンピック」とばかりに、東京五輪・パラリンピックを訪れる海外からの観客に対しては、入国後14日間の待機措置を免除する緩和策の検討に入った。通常通りの待機措置を求めたら、海外から観に来る者は激減すると判断したからだ。

 こんなことをすれば国内の感染リスクは飛躍的に高まる。そのうえ、医療ボランティアには「報酬は原則的に支払わない」という従前からの方針が適用される。コロナ対応でひっ迫した医療現場から人手を奪い、ただで危険な仕事をさせるとは…。医療従事者をとことんなめている。

カネ儲けの祭典

 なぜそこまでオリンピックにこだわるのか。巨大企業のカネ儲けのためである。東京五輪招致委員会は「今、ニッポンにはこの夢の力が必要だ」というキャッチコピーを掲げていた。「ひとつになるために。強くなるために」オリンピックが必要だというのだ。

 相当気色悪いポエムだが、初期バージョンはもっとひどかった。いわく「オリンピック・パラリンピックは夢をくれる。そして力をくれる。経済に力をくれる。仕事をつくる。それが未来をつくる」。

 見てのとおり、経済効果への期待感をひたすら煽っている。スポーツの祭典のはずなのに、競技そのものへの言及が一切ない。現在のオリンピックがカネ儲けの祭典であることを自分で暴露したようなものだ。

 では誰が儲けるのか。筆頭は世界のスポーツイベントで荒稼ぎしている広告大手・電通だ。オリンピックの場合、テレビ放映権の販売、五輪スポンサーの仲介、ロゴやマスコットキャラクターの使用料など、あらゆるコンテンツが電通の儲け口になる。

 2013年、東京での五輪開催が決まったとき、当時の石井直(ただし)社長は社員に向けたメールで訓示を出した。「電通は次期東京オリンピックで、売上高1兆円を達成する」。だから中止になっては困るのだ。

買収された東京大会

 電通の支配下にある日本のメディアはほとんど報道しないが、海外では東京五輪招致をめぐる贈収賄疑惑の追及が続いている。東京招致委が支払ったコンサルタント料が、IOC委員の票を集める賄賂などに使われた疑惑だ。

 ロイター通信(3/31)によると、大会組織委員会理事を務める高橋治之(はるゆき)・電通元専務は東京招致委から約9億円相当の資金を受け取り、IOC委員らにロビー活動を行っていたという。取材に対し高橋は、招致のための「飲み食い」等に使ったと認めている。

 菅首相も買収に関与していた疑いがある。菅のスポンサーとして知られるセガサミーホールディングスの里見治(はじめ)会長が言うには、官房長官だった菅から「アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億〜5億円の工作資金が必要だ。何とか用意してくれないか」と頼まれたというのだ(週刊新潮2月20日号)。

 セガサミーは“横浜カジノ”への参入を目指している。だから、カジノ推進の中心人物である菅に恩を売って損はないとソロバンをはじいたのだろう。

   *  *  *

 菅首相は周囲に「五輪はいずれにせよやる」との決意を示したという。「五輪を成功させた熱狂のまま衆院選になだれ込む」腹積もりのようなのだ(11/16朝日)。カネ儲けと権力維持のために使われるオリンピック。そんなもん、とっととやめちまえ。  (M)

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