2020年12月25日 1655号

【ひど過ぎる菅政権初の経済対策/感染拡大防止は眼中になし/コロナ禍つけ込み構造転換狙う】

 菅政権が発足して初めてとなる経済対策が12月8日、閣議決定された。「事業規模73・6兆円、GDP(国内総生産)3・6%程度の押し上げ効果」を強調する。しかし、新型コロナウイルス感染拡大で死者、重症者の増加、医療崩壊が指摘され待ったなしの対策が求められるのに、要請にこたえるものでは全くない。就任時「コロナ対策最優先」と口にした菅義偉首相だが、ここでもカネもうけ最優先の地金をさらけ出している。

「検査拡充」はナシ

 今回の経済対策は20年度の3次補正予算と21年度当初予算あわせて国費30・6兆円、自治体支出や財政投融資あわせて40兆円の財政規模を想定。菅政権は「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」と銘打った。

 「命と暮らしを守る」には、新型コロナ感染拡大防止のための検査、医療態勢、休業補償などこれまでの対策を点検し、その不備を早急にカバーするものでなけれならないはずだ。だがそんな発想は全くない。

 掲げられた3つの柱。その一つ「新型コロナ拡大防止策」を見る。総額5・9兆円。全体の15%に満たない財政規模だ。検査は拡充されるのか。「保険適用自己負担分の公費負担継続」と「抗原検査キットの増産支援」ぐらいしか見当たらない。

 菅は所信表明(10/26)で「冬の季節性インフルエンザ流行期に備え、地域の医療機関で1日平均20万件の検査能力を確保」と言った。どうなったか。検査数は日2万件が4万件程度にはなったが、20万件には遠く及ばない。

 問題は検査数だけではない。感染拡大防止につながる行政検査や社会的検査が拡充したのかどうかだ。「駅前検査」など民間で比較的安価に自費検査ができる事例は極めて限られており、ほとんどは数万円水準。しかも、陽性者が出ても保健所への通報義務はない。感染経路を追跡し、隔離・保護などを行う保健所は相変わらず業務オーバーとなったままだ。

 一部自治体が取り組んでいる医療・介護施設職員などを対象とした社会的検査への支援はどうか。政府は1兆5千億円増額した「地方創生臨時交付金」で対応せよという。この交付金は1次、2次の補正あわせて3兆円の枠がある。9月末段階で1788自治体から総額2兆7千億円の事業実施計画が出されているが、中には「公用車の増車」「平和の鐘の製造」など感染防止に結びつかないものもあり、市民の批判を受けている。


支援策は打ち切り

 自治体を責めるだけでは済まない。政府の示す事例集を見れば、事実上何でもありだ。自治体が自由に使える交付金は必要だ。地域に応じた休業補償などに充てることができる。だが問題なのは、政府が感染防止のためにしなければならないことをしていないことだ。例えば、社会的検査の制度整備を怠ってきたことも一つ。二言目には「自治体の判断」と逃げる姿勢は、政府の無策ぶりを表している。

 コロナ禍への経済支援は項目すらない。2つ目の柱とした「ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環」には「デジタル改革・グリーン社会実現」「経済構造の転換・イノベーション等による生産性向上」のタイトルがならぶ。今行うことかとあきれてしまう。

 項目を拾えば「民需主導の好循環実現」として「地方への人の流れの促進など活力ある地方創り」。GoToトラベルの来年6月末まで延長とある。「成長分野への円滑な労働移動等の雇用対策パッケージ」には雇用調整助成金の特例措置の延長(来年2月末まで、その後段階的縮小)。感染拡大の影響が続く中で、特例措置をやめるというのだ。「暮らしと民需の下支え」には、緊急小口資金等の特例措置の来年3月打ち切りが出ている。コロナに苦しむ中小企業・小規模事業者には存続への支援ではなく、業態転換を促す補助金を創設するという。

 3つ目の柱は「国土強靭化策」。コロナ対策と同等の財政規模としており、公共事業投資ととともに「自衛隊の運用態勢の強化」までうたっている。「安心と希望のため」の対策はどこにあるのか。

増加する自殺・失業

 10月の完全失業者数は215万人(12/1総務省労働力調査)と、前年同月比で51万人増加。9か月連続して前年よりも増えている。自殺者も前年の10月に比べ40%増え、2153人にもなった。特に女性は80%も増加した(厚労省月例報告)。菅が経済対策取りまとめを指示したのは11月。こんな状況のさなかだ。

 今回の経済対策には、2次補正で設けられた「ひとり親世帯臨時特別給付金」の再支給をあげている。1世帯5万円(第2子以降一人につき3万円)。だが、20年度の予備費から737億円をあてるもので、今回の経済対策に関係なく実施可能だ。

 なぜ10月26日からの臨時国会に示さなかったのか。必要な家庭に必要な時に支給されているのか。制度改善や増額の必要性を議論すべきものだ。菅はこうした場を避け、閉会の記者会見で表明したのだった。

 解雇や倒産を回避するのに効果が出ていた雇用調整金や緊急小口資金。「延長に必要な予算措置を手当てする」と記者会見では期待させながら、「経済対策」では年度内打ち切りを記す。だまし打ちに等しい。

またもや予備費10兆円

 20年度予算には使途を明示できない7兆円を超える予備費が残っている。ここからGoToトラベル延長に3119億円が使われる。感染拡大の一因との指摘もある事業に、内閣の一存で支出ができる。これを見れば、政権の自由になる大規模予備費は大きな問題だ。今回の経済対策にも予備費10兆円(3次補正5兆円、21年度予算5兆円)が予定されている。菅政権に好き勝手させず、有効なコロナ対策を示させる必要がある。

 この経済対策は「ポストコロナの新たな時代における民需主導の持続的な成長軌道の実現」と目的を明記している。菅が見ているのは目の前のコロナ禍ではない。淘汰された中小企業、あふれる失業者の上に築かれる徹底した新自由主義の経済構造だ。

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