2020年12月25日 1655号

【国際基準から日本のコロナ対策を考える/「国連人権勧告の実現を!」集会/湧き出る非人間的な人権侵害】

 新型コロナウイルス感染防止の名の下に、プライバシーや子どもたちの学ぶ権利が侵害され、障害者やマイノリティーへの差別・抑圧が強まっている。「そのような現状を見過ごすわけにはいかない」と12月5日、「第8回国連人権勧告の実現を!〜国際人権基準からみる日本のコロナ対策」がオンラインで開催された。

 青山学院大学人権研究会の同大学名誉教授・新倉修さんが主催者あいさつ。「日本社会にもともとあった構造的差別が、コロナを契機に顕在化してきている。国際人権基準に照らして今のコロナ対策を検討する」とテーマを述べた。

 はじめに、集会のファシリテーターを務める東京経済大学教員の寺中誠さん(アムネスティ日本前事務局長)が「国際人権基準とは何か」を説明。「実際的には各国の政府が直接国民の人権を守らなければならない。その国・政府に人権を守らせるために、国際社会は一丸となって基準を設ける。それが条約である」

 条約の実施体制の要となるのが国内人権機関だが、日本ではまだつくられていない。憲法98条2項が定める通り「条約及び確立された国際法規は誠実に遵守することを必要とする」が遵守されているのか、はなはだ疑問と言わざるを得ない。

社会的弱者の視点

 障害者の権利実現をめざすDPI日本会議事務局の崔栄繁(さいたかのり)さんは「コロナと障害者差別―国連障害者権利条約の基準から見ると」と題して、非常時における障害者の人権侵害の実態を訴えた。

 とくに問題なのが障害者、精神病患者に対する虐待。コロナ禍で家族も面会できない現状では、隔離施設で何が行われているか分からない。国連障害者権利条約14条「身体の自由及び安全」、16条「搾取、暴力及び虐待からの自由」に抵触している。日本には障害者虐待防止法が存在するが、医療機関・教育施設に防止義務はあるものの通報義務はなく、虐待の現状は表に出ない。また教育現場では、健常者に行われる教育サポートが障害者の場合は保護者任せになっており、同条約24条の平等な教育の権利の保障とかけ離れている。崔さんはこのように国連障害者権利条約に照らしつつ、障害者の置かれている窮状を指摘した。

 教育に関連して、3月の一斉休校要請の期間中、共働きやシングルマザーの家庭では仕事と家庭の両立が崩壊した。安倍首相(当時)が思い描く家庭とは「両親がそろっていて、どちらかの親が働けば暮らしていける家庭」だ、と政府の想像力の乏しさを痛烈に批判したのは、東京教職員組合書記長の武捨(むしゃ)健一郎さん。緊急事態だからこそ社会的弱者に寄り添わなければならない。

命の選別

 差別・格差が温存されたまま、コロナ禍で社会的弱者は置き去りにされ、人権を無視した政策の矢面に立たされる。さいたま市は3月、コロナ感染対策として市内の幼稚園や保育園に備蓄マスクを配布した際、埼玉朝鮮初中級学校の幼稚部を配布対象から除外した。「命の選別。朝鮮人はウイルスに感染して命の危険があろうがかまわない、という行政のメッセージなのか」と在日本朝鮮人人権協会の朴金(パクキム)優綺(ウギ)さんは憤る。抗議を受け、市はマスクを配布したが、「まだ謝罪がない」という。明らかな国際人権条約違反だ。

 この問題では、SNS上で在日朝鮮人に対するヘイトが横行した。ここにも人権感覚の希薄さ、いや、毛ほどの後ろめたさも感じることのない非人間的な人権侵害が湧き出ている。

 寺中さんは「コロナ蔓延に対する国の様々な対策は人びとの生活を守るかたちで使われているのか、国連・条約機関から注意喚起がされている」と提起。日本の人権状況の改善のためともに頑張ろう、とのアピールを採択して終了した。





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