2021年01月01日・08日 1656号

【なにがなんでもマイナンバーカード/資本の要請デジタル経済≠ノ応える菅政権】

 菅政権肝いりのデジタル化政策。焦点の一つにマイナンバーカードと銀行口座の紐づけ問題がある。

 マイナンバー法(13年制定)は第2次安倍政権、つまり菅義偉首相が官房長官の時にできた。実際に番号を振り始めた15年にすぐ改正。預貯金口座への紐づけを決定したが、義務にはできなかった。今、紐づけできているのは1%にも達していない。カードの交付自体20%に満たない。菅政権は、コロナ危機を利用してマイナンバーカードの普及と口座紐づけ義務化を狙っている。なぜそれほど入れ込んでいるのか。

ここにも竹中平蔵

 その背後には例の男がいた。菅首相のブレーン竹中平蔵。「マイナンバーカードはデジタル経済の基本的なインフラ」と位置づける竹中は、「普及が遅れるなど厳しい」現状を憂え、「デジタルの新常態をつくるには政府に司令塔が必要」(日本経済新聞7月24日付)と突破策を提案する。コロナ対策での特別給付金の混乱や保健所のファックス報告による感染者数把握の遅れなどに対する批判を逆手に取りつつ、菅政権は竹中提案の方向に動き出す。

 9月23日に開催されたデジタル改革関係閣僚会議。経済・生活、行政、働き方、医療、教育、防災の6分野で課題を列記し、喫緊に取り組むべき事項を掲げた。その事項とは、マイナンバーカードの更なる活用、迅速な給付の実現、コロナ禍での臨時措置の定着・拡充、国と地方を通じたデジタル基盤の構築である。最優先されるのはマイナンバーカードの活用だ。

 マイナンバーカードが普及すると、どうなるのか。菅首相は「各種給付の迅速化やスマホによる行政手続きのオンライン化…オンライン診療やデジタル教育などの規制緩和」を行い、「行政の縦割りを打破し、大胆に規制緩和を断行します。そのための突破口として、デジタル庁を創設」(同会議での発言)と強調する。規制緩和によって医療・教育分野でデジタルビジネスのチャンスをつくる。竹中が自著『ポストコロナの日本改造計画』に書いた「デジタル資本主義」の姿そのものだ。

 会議後、マイナンバーカードと運転免許証との一体化を25年3月までに実現などの工程表を取りまとめた。

 さらに菅首相は、「マイナンバーカード・マイナンバーを基盤としたデジタル社会の構築」で「強靭な社会経済構造」をつくると意気込んでいる。言換えれば、監視と管理の社会を強化すると言っているのである。

 デジタル改革関係閣僚会議の開催日に経団連は、「デジタル庁の創設に向けた緊急提言」を発表した。内閣デジタル局とデジタル庁の設置、関連予算の一括計上、行政各部に対する指揮命令権を求めた。内閣デジタル局で国と地方のデジタル施策を一元的に企画立案し、デジタル庁でシステムの企画立案と開発などを担うとする。デジタル化の促進で官民データの共有によるビジネスチャンスの拡大を狙って菅政権をバックアップしようというのだ。

個人情報漏れ放置

 菅政権と財界はデジタル化を声高に叫ぶが、市民のデジタル環境はどんな状況なのか。たとえば、スマホの個人保有率は全体で約68%である。65歳以上になると約32%しかない(総務省「通信利用動向調査」5月29日)。この保有率で「スマホによる行政手続きのオンライン化」などの実効性は薄く、取り残される人が出てくる。しかも、電子決済とは無縁であっても資産が盗まれる危険性などデジタル化にまつわる問題は放置されている。

 実際「漏えい・紛失した可能性のある個人情報は(12年から19年まで)累計8889万人」(東京商工リサーチ調査)になる。累計とはいえ日本の人口の約7割の個人情報が洩れている。その結果、すでに市民に被害が出ている。電子決済サービスを悪用して他人の銀行口座から引き出す事件が9月に発覚した。スマホを持たず電子決済をしない人の口座さえ被害を受けたのだから事態は深刻である。



 コロナだけでなく、このデジタルの分野でも、だれもが危険な状態にさらされているにもかかわらず、菅政権は安全対策に力点を置かない。それどころか、情報漏洩防止が不完全なままデジタル化を進めて監視と管理を強めようとしている。

 個人情報は人権である。「利便性」でごまかされず政府・資本による市民生活丸ごと支配を許してはならない。

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