2021年01月01日・08日 1656号

【沖縄新基地土砂投入2年/沖縄ドローンプロジェクト分析担当責任者奥間政則さんに聞く/ゆるぎない気持ちをもって闘う土木技術者/無関心から目覚め、今や生きがい=z

 辺野古新基地の建設工事は土砂投入強行から2年が経った。だが建設反対の民意を力でねじ伏せようとする政府の強硬策は行き詰まっている。軟弱地盤や活断層の存在、埋め立て土砂不足など計画自体の杜撰(ずさん)さに加え、何よりも沖縄県民の粘り強い闘いや全国からの連帯行動が立ちふさがっているからだ。この闘いをさらに広げようと全国を飛び回る沖縄ドローンプロジェクト分析担当責任者で土木技術者の奥間政則さんに工事の現状などについて聞いた(12月5日、まとめは編集部)。



 沖縄現地では土砂搬入阻止の闘いが続いています。建設工事はどこまで進んでいるのでしょうか。

 工事がいかにも進んでいるようにみせかけようと、政府は浅瀬を護岸で囲み、2つの工区の埋め立てを進めています。辺野古崎側の(2)−1工区は陸地化され、辺野古浜側の(2)工区は約4割ほど水面が残っています。誤解しないでほしいのですが、埋め立てられた土砂の量は、計画総量の数%(県の試算3・8%)程度です。計算上、「完成」するにはこれまでの20〜30倍の土砂が必要になります。

 沖縄防衛局は必要な土砂を確保するのに、宮古島などの離島も含めて県内全域で採取を検討しています。設計変更書では、沖縄島南部の糸満市や八重瀬(やえせ)町が追加されています。南部は激戦地で多くの住民が犠牲になったところ。いまだ遺骨の収集が続いています。

 南部にはほとんど山がありません。土砂を採取するには土地を掘り下げることになります。沖縄戦の犠牲者の遺骨が混じった土砂で基地を建設するのか、と怒りの声が上がっています。

 当初、瀬戸内など県外からも土砂の調達を計画していましたが、このように県内調達に追い込まれているのは、外来生物の侵入防止を目的とする県外土砂規制条例の存在とともに、辺野古への土砂搬出に反対する全国的な闘い(辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会など)があるからです。全国の闘いが沖縄の闘いに良い影響を与えていることを忘れてはいけないと思います。

 沖縄防衛局の届け出た設計変更を知事が承認拒否することに全国の市民が注目しています。

 変更設計を縦覧したところ、全国から2万件近い意見書が寄せられました。私もある物理学者と連名で「濁り水流出問題」について意見書を出しました。汚濁防止膜は外周を完全に閉め切って、海底に着くよう設置する必要があります。ところが現場では開口部があり、海面から7bまでしか防止膜は下りていません。このため濁り水が場外に流出し、ジュゴンの餌である藻場に細かい土粒子が堆積していました。19年6月の防衛省交渉では、ドローンで撮った証拠写真を示し、追及しました。

 変更設計でも不完全なままです。そのうえ、工期短縮のために周辺を護岸で囲わないまま水深の深いところに土砂を直接投入する「先行埋立」工法を採用するとしています。甚大な濁りが出るのは明らかです。

 沖縄防衛局は環境に与える影響を計算し、環境基準を満たしていると主張しています。ところが、そのシミュレーションが怪しいのです。計算モデルが実際の大浦湾の海洋状態を再現しているか検証していません。しかも汚濁は上下方向には広がらない前提の計算式にしています。意見書で細かく指摘しました。

 その他、軟弱地盤や断層の評価などは大問題です。辺野古の活断層を調査した新潟大学名誉教授の立石雅昭先生を中心に多くの学者や研究者・技術者があつまり沖縄辺野古調査団ができています。オール沖縄や私も参加しています。調査団はすでに、いくつかの重要な指摘をしています。

 まず耐震設計基準のごまかしです。沖縄防衛局は、レベル1地震動 (基地の供用期間中に発生する可能性が高い地震動)に耐えられる設計でよしとしているのですが、本来、レベル2地震動(想定される最大規模の地震動)を採用しなければなりません。仮に沖縄防衛局の言い分を認めたとしても、レベル1地震動の大きさを決める際、沖縄近海で頻発する太平洋側の地震を無視し、北西側で起きる小規模な地震をもとにしているなど、重大なごまかしを行っているのです。

 調査団は、7月には震度1〜2程度の地震でも護岸が崩壊する計算結果を公表しました。現在、沖縄県が変更設計書を審査していますが、調査団はアドバイザーとして県に協力しているのです。

 承認拒否の後、政府は裁判に持ち込むでしょう。基地建設を止めるにはどんな闘い方が有効でしょう。

 私の土木技術者としての現場経験が大いに役立っています。

 20年ほど前、古宇利(こうり)大橋(名護市我地島と古宇利島を結ぶ全長約2`bの長大橋)の橋脚工事の現場監督をしました。現場は固い基礎地盤が深く、杭が届かないため、杭の先端ではなく杭の周面と地盤の摩擦力で橋の重さを支える特殊な構造が採用されていました。県の発注工事では初めてのケースです。施工までに1年かけ、たくさんのボーリング調査が行われました。モズクの産地でもあり、施工時には濁り水の流出防止に大変気を使いました。

 その経験があったので、辺野古の軟弱地盤対策で砂杭を打設するのに土質データが少な過ぎることや汚濁防止膜のいい加減さがすぐにわかりました。辺野古のテント前で話をしたら、納得してもらえました。市民が根拠をもって理詰めで闘うことで政府を追いつめていけるでしょう。

 私の現場経験は学者の人たちの役にも立っています。それもあって、地質学の専門家から地理学や物理学の専門家、行政法の専門家とのつながりができました。科学者・技術者の集団が県を理論的に支えていけば、承認拒否後、たとえ政府と裁判になっても勝てるのではないかと思います。

 奥間さんは日々どんな思いで闘っているのでしょうか。読者に一言お願いします。

 私は土木技術者としてのプライドがあります。国が発注する公共工事は厳しい安全管理や汚濁防止対策を要求され、確実に実行してきました。いまの基地建設工事は全くなっていません。沖縄防衛局は数々の違反を見て見ぬふりをしています。土木屋として許せません。

 専門学校を出て、20歳から約30年土木の仕事をしてきました。実は1995年の少女暴行事件が起きた9月、私はその事件が起きた米軍基地キャンプハンセンで工事責任者をしていましたが、事件のことは全く知りませんでした。それほど無関心だったのです。

 2015年から土木の仕事もやめて反対運動に全力で取り組んでいます。生活は苦しいのですが、とても充実した日々で、生きがいを感じています。

 ルポライターの鎌田慧さんが「無関心の罪」と題するコラムを新聞に書いていました(18年1月東京新聞)。ハンセン病差別について「無関心は支持であり共犯である」と結んでいます。そうだと思います。でも、私のように「無関心」から目覚めることができます。一人でも多くの人に関心をもってもらうきっかけとなればと思いながら全国を回っています。これからもゆるぎない気持ちをもって、闘っていきます。

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS