2021年01月01日・08日 1656号

【菅政権 コロナ理由に兼業のススメ/実態は低賃金・細切れ労働】

 菅政権は、新型コロナウイルス感染拡大を契機に、テレワークや副業・兼業などについて「モデル就業ルール」を作成するなど、低賃金の細切れ労働(ギグワーク)拡大に躍起となっている。

本業の低賃金が原因

 政府は、2030年に「先端IT人材」が55万人不足すると予測。統合イノベーション戦略推進会議は、不足する高度IT人材の充足策として「副業・兼業」をあげた。ただし、ここで言われる副業可能な「高度IT人材」とは、本業所得1000万円以上の層に一定数存在する副業者であり、政府はバラ色のイメージを宣伝する。

 実態はどうか。

 大手人材派遣・広告企業マイナビが行った中途採用業務の人事担当者1910人を対象にした調査結果によると、社員の副業・兼業を認めている企業は約5割。導入の目的は「社員の収入を補填するため」が最多であった。業種別にみると、現在副業・兼業を認めている割合が最も高いのが「医療・福祉・介護」で57・2%。「サービス・レジャー」(56・2%)、「IT・通信・インターネット」(55・6%)と続く。

 実際に副業をしている労働者の3分の2は、本業の所得が299万円以下(その多くは199万円以下または99万円以下)となっている。



 医療・福祉・介護やサービス・レジャー業界で副業・兼業認可率が高くなっているのは、副業で補填しなければ生活できないほど本業が低賃金であるためだ。コロナ危機のもとで、生活に必要不可欠なエッセンシャルワークの価値が見直され、賃金の大幅増額が必要となっている。収入を補填するためのやむを得ない副業・兼業を政府が宣伝し推進するなど言語道断だ。

世界の流れは撤廃

 すでにANAは一般社員の年収を3割削減することと引き換えに、副業を認可している。

 世界的には、副業・兼業は「細切れ雇用」の問題として認識されている。

 例えばアメリカでは、大手スーパーのウォルマートが労働時間を短くすることで社会保険の適用をすり抜けることが批判された。ドイツでは「ミニジョブ」という制度が低賃金・不安定雇用の温床として指摘され、イギリスでも「ゼロ時間契約」という仕組みが同様の理由で追及された。

 1日の労働時間が短く週に数日しか働けなければ、複数の仕事を掛け持ちし副業・兼業をしないと生活できる収入を得られない。また、複数の仕事の掛け持ちで労働時間は長くなる一方、社会保険制度による保障は低くなり、今回のような不況ではただちに苦境に陥る。

 アメリカでは、バーニー・サンダース上院議員が「細切れ雇用の撤廃」を訴えている。サービス業の労働組合であるSEIUなどは「One Job Should Be Enough(一つの仕事で十分にすべきだ)」という運動を展開している。イギリスやドイツでも労働組合が細切れ雇用に反対している。

暮らしていける賃金を

 政府によるモデル就業ルールは、本業も副業も雇用されていることを前提にしている。しかし、兼業・副業を認可する企業が増えれば、フリーランスや請負の形での就労が拡大するのは明らかだ。ウーバーイーツのようなオンラインで労務を仲介するプラットフォーム労働も拡大する。

 「高度IT人材」にかこつけた政府の兼業・副業推進の狙いは、雇用を流動化させ、低賃金細切れ労働を社会全体拡大することだ。

 日本を含む多くの国で、年金や失業保険などは一つの仕事を前提に設計されている。本業の賃金が下がれば保険給付は低下する。

 兼業・副業の場合の労働時間管理も「労働者の申告」に委ねられた。「高度IT人材」が兼業・副業を余儀なくされたとき、長時間労働が過労死水準に及ぶのは必至となる。

 副業をして働かないと当たり前に暮らしていけない社会システムこそ、変えなければならない。

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