2021年01月01日・08日 1656号

【未来への責任(313) 技能実習制度と強制労働】

 コロナ禍は多くの人々に犠牲を強いている。それは日本人だけではない。この国で働いている外国人労働者をも直撃した。

 埼玉県本庄市の大恩寺。ここは「在日ベトナム人仏教信者会」の“拠点”となっているが、そこに今約40人のベトナム人が身を寄せているという(11/27朝日)。その多くは、コロナ禍で解雇されるなどして仕事・住居を失った技能実習生等だ。ある人は、熊本でビニールハウス組み立ての仕事をしていたが、給料17万円の約束が9万円しか払われず、1日10時間働いても残業代はゼロ。宿舎はコンテナでシャワーは野外。おまけに怒鳴られ蹴られ、耐えられなくなり逃げ出した。その後、埼玉で新たな職を得たが、コロナで解雇。あげくオーバーステイで逮捕され、釈放されたが住居はなく、大恩寺にたどり着いた。他の人たちも多かれ少なかれ同様の境遇であったろう。

 技能実習制度は国が設けた。2017年施行の技能実習適正化法では、事業の適正な実施と実習生保護を図るため自治体には必要な施策を進める努力義務が課された。しかし、大恩寺に身を寄せるベトナム人労働者はそんなものとは無縁だ。

 18年の政府調査でも「実習生に関連した政策を実施している」と回答した自治体は14市町村にとどまった(12/2朝日)。

 日本には今160数万人の外国人労働者が働いている。コンビニ、飲食店では日常的に出会う。就労先はそこだけではなく、水産加工・畜産・野菜栽培など地方の一次産業は高齢・過疎による人手不足を彼らで穴埋めしている。彼らが日本の「食システム」を支え、地域経済を支えている。



 しかし、技能実習制度では、今も低賃金・酷使虐待、差別が横行している。コロナ禍で不要になれば真っ先に切り捨てられる。これがこの国の外国人労働者の実態である。ほとんど「強制労働」と言える。労働基準法、技能実習適正化法、強制労働禁止条約すら無視して外国人労働者を働かせている事業所は多く、政府はそれを黙認している。

 戦時中、日本の炭鉱では労働者のうち朝鮮人が33%を占めた。多くの労働者が兵士として出征させられたことが大きいが、「炭鉱に行くくらいなら兵隊に行った方がましだ」と言われるほどの過酷な労働実態が人手不足を常態化させてもいた。それを朝鮮人、中国人に穴埋めさせた。建設現場、港湾荷役、軍需産業でも同様だった。不可欠の労働力であっても低賃金、賃金不払いで酷使虐待した。それらの労働者に戦後、謝罪も償いもしないまま済ませた。

 これと現在の技能実習生等の扱いは地続きではないのか。今こそ過去を清算し出直す時だと思う。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS