2021年01月01日・08日 1656号

【コロナが浮き彫りにしたこの国の姿/失業・収入源に苦しむ女性たち/生存権を奪う「7割非正規」】

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、女性たちの雇用や生活がより厳しい状況に追い込まれている。失業、収入減、そして自殺者の数などの数値が男性以上に悪化しているのだ。コロナ禍が浮かび上がらせたのは、女性の低賃金・不安定労働で成り立っていたこの国の姿だった。

非正規多い女性を直撃

 「このコロナ禍においても、女性活躍の取り組みを進めることを止めてはならない。社会変革が求められている今こそ、男女共同参画を達成し、より公正で強靱な社会を作るためのチャンスだと、私は確信している」。菅義偉首相は12月15日、今年度の「女性が輝く先進企業」の表彰式でこのようにあいさつした。

 例の棒読み口調で「今こそ女性活躍のチャンス」だと語る菅首相は、大きな反響があったNHKスペシャル『コロナ危機 女性にいま何が』(12月5日放送)を観ただろうか。夜は会食をはしごをするのに忙しい首相のことだから、たぶん観ていないだろう。

 番組はコロナ禍における女性たちの苦境に統計データと実例で迫っていた。まずはデータから。緊急事態宣言が出された直後、仕事を失った人は男性32万人に対し、女性は倍以上の74万人に上った(内閣府調査)。



 番組が行ったアンケート調査によると、4月以降に解雇や休業、労働時間の急減など仕事に何らかの影響があった答えた人の割合は、男性18・7%に対し女性は26・3%。女性が1・4倍高い。10月の月収が感染拡大前と比べて3割以上減った人の割合も女性の方が高かった(男性15・6%、女性21・9%)。

 このように、新型コロナの感染拡大は働く女性に大きな打撃を与えている。ロナ禍は飲食・宿泊業やサービス業など女性労働者の比率が高い業種に深刻な影響を及ぼしているため、女性の雇用状況は男性以上に悪化しているのだ。

 特に非正規雇用の女性が影響を受けやすい。安倍政権は国の成長戦略のひとつに「女性活躍推進」を掲げ、女性の雇用は7年間で340万人増加した。しかし、その7割は不安定で賃金も低い非正規雇用であった。そこをコロナ禍が直撃したのである。

「全然活躍できない」

 小学生と3歳の子どもがいる小夏さん(28)。夫(32)は自営業。彼女は清掃業のパートをしている。月給は4万円。コロナ前の半分の収入しかない。以前はアパレル関連の会社に勤めていたが、一斉休校で子どもの世話をしなくてはいけなくなり、退職した。

 小夏さんの収入減で家計は火の車。このままではマイカーまで手放さざるを得なくなる。家族会議で頭を抱える小夏さん。「女性活躍って言うけど全然活躍できない。どうなっているの。どうしてくれるの」

 40代のシングルマザー彩子さん。4歳から17歳の娘4人を育てている。昨年秋に離婚。元夫からの養育費はなく、月14万円の児童扶養手当が頼りだ。高校生の娘がアルバイトで家計を助けている。

 今春、食品加工会社への就職が決まっていたが、コロナで内定取り消しに。貯金が底をついた彩子さんは国の緊急小口資金を申請した。だが、内定取り消しは制度の対象外と告げられた。「最後に助けてくれる所と思ったから、相談に来ているのに」。役所の窓口で彩子さんは泣き崩れた。

自殺者も女性が急増

 衝撃的な数字がある。自殺者数の増加だ。厚生労働省がまとめた10月の数値をみると、去年の同じ月より女性は82・8%も増えている(男性は21・7%増)。

 NPO法人POSSEの今野晴貴代表は要因の一つにコロナ禍での労働問題があると指摘する。「情熱を注いできた仕事を突如として失うことが、経済的打撃にとどまらず、絶望やショックを与えていることがわかる」と言うのだ。

 25歳の理容師は「仕事が好きだったので、退職勧奨を受けたときに、首を吊ろうかなと思うぐらい追い詰められた」と語る。着付けの仕事をしていた48歳は休業給付金の手続きを会社に拒まれ、「自分がいらない人間になったような気分になった」。(POSSEおよび総合サポートユニオンへの労働相談より)。

 女性を使い捨て可能な労働力としか見なさず、「公助」から排除する――コロナ禍が浮き彫りにしたこの国の労働政策が女性たちを絶望の淵に突き落とし、生きていけない事態に追い込んでいるのである。

 前述のNHK調査によると、雇用に影響があったシングルマザーの30%が食費を切り詰め耐えているという。この事態を高級ステーキ店で忘年会に興じる菅首相はどう思っているのだろう。やはりいつもの「全く関係ない」で切り捨てるつもりか。     (M)
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