2021年01月01日・08日 1656号

【コロナ危機―グローバル資本主義の醜さあらわに/民主主義的社会主義へ政策掲げ支持広げる/MDS佐藤和義委員長に聞く】

 新型コロナウイルス感染症が見つかって1年がたつ。グローバル資本主義の政府、とりわけ日米両政権は命を守る政策を放棄するばかりか、危機すら利用して資本の利潤追求を優先することに走ってきた。「命よりカネ」の社会システムに終止符を打つ時だ。2000年の結成以来20年間にわたりグローバル資本主義と闘い続けてきたMDS(民主主義的社会主義運動)佐藤和義委員長に聞いた。(まとめは編集部)


コロナ危機とは何か

Q 新型コロナ危機から浮かび上がったことは何か?

 感染自体はコロナウイルスが起こしたことだが、その被害を倍化したのがグローバル資本主義のシステムだ。

 現在のコロナ危機の特徴は、米国でも日本でも同じだ。米国ではジェフ・ベゾス(アマゾン)、マーク・ザッカバーグ(フェイスブック)がわずか数か月間で日本円で10兆円以上も資産を増やした。日本でも35人の大富豪が同じく8兆円ほど資産を増やしている。GDP(国内総生産)が減少しているにもかかわらずだ。

 一方で市民は仕事を失い、生活苦にあえいでいる。この極端な格差が、コロナ危機の本質だ。

 では、資本と現政権の側は何をしようとしているのか。一言で言えば、グローバル資本が儲け続けられるシステムを維持拡大しようとしている。

 特に日本の安倍・菅政権のデタラメさはひどすぎる。

 例えば追加経済対策は総事業費73・6兆円だが、財政支出は40兆円。そのうち、コロナ拡大防止策は6兆円に過ぎない。これ以外の34兆円は「ポストコロナ」経済構造転換18兆円、国土強靭化6兆円、予備費10兆円に振り向けられ、資本の救済支援経費が大半を占める。

 日本政府が特におかしいのは、感染者が急に増えたといっても欧米のように1日当たり何万人も増えているわけではない。にもかかわらず、欧米以上にひどい医療危機・医療崩壊だと言われている。要するに大胆に財政出動し、医療システムを再構築して守り抜こうとしなかったからだ。PCR検査を増やさない。病院をはじめ医療システムを維持・拡大するための病床増設もしない。医療従事者や病院経営も支援しない。

 感染の危険にさらされながら新型コロナ感染拡大と闘っている人たちについて待遇改善どころか、給料が引き下げられ、ボーナスも支給されない。異常な残業を強いられる。こんなことは世界に例がない。努力している医療機関がつぶれそうになっている。

 一方で柳井正(ファーストリテイリング)、孫正義(ソフトバンク)たちが、じっとしていて8兆円増やしている。金融緩和で株式市場に巨額の資金を流し、株価を釣り上げているからだ。あるいは、466億円をつぎこんだアベノマスクや何兆円もの給付金事業で商社やお友達企業、電通を潤し、GoToトラベルでJTBなど大手旅行会社を支える。

 その時使われてきたのが「経済を回す」という言葉だ。市民には「雇用を維持・拡大する」「経済が良くないと自殺者が出る」と言って、「経済を回す」ことと「感染対策」を同時にしないといけないと思い込ませる。だが、彼らが言う「経済を回す」の意味は、株高を維持し、資本家・金持ちの資産や企業の内部留保を増やし、金融資本が支配していくというグローバル資本のシステムを維持・強化することだ。決して市民が生きていくための経済を維持するのではない。

 雇用や経済が悪い時こそ生存権を保障するのが社会保障制度だが、その充実はいっさい言わない。それどころか、老人医療費(後期高齢者)の自己負担について、現在の一律1割を2割に増やし、対象も年収200万円以上と大幅に拡大する方針をコロナ禍のさなかに決定した。

 「医療危機の回避」と自ら口にしながら、いまだに全国的な医療機関の統廃合方針を撤回しない。グローバル資本が市民から収奪するシステムを維持する枠組みの中で、コロナ危機をやり過ごそうとするから「追加経済対策」のように感染対策にカネを出し渋る。

デジタル化は市民洗脳

Q 菅の政策をどう見ますか?

 菅政権が新型コロナ対策と称して盛んに打ち出しているのがデジタル化だ。

 テレワークだとか言っているけれども、新型コロナ対策に一切関係ない。

 直接的には、情報産業に市場を提供する。富士通やNTT、日立などに巨大な市場をもたらす。学校でもGIGAスクールなどと言ってタブレットPCを1人1台配布する。莫大な儲け口だ。一方で、デジタル化は労働者を減らし、競わせ、より悪い労働条件で働かせる。残業代ゼロのホワイトカラーエグゼンプションなど労働法制破壊と相まって、他産業にも人件費削減による利益をもたらす。

 根底には市民の情報をすべて掌握するところに狙いがある。普及が進まないマイナンバーカードの取得へマイナポイントで市民を誘導し、運転免許証や健康保険情報を紐づけする。

 問題は、完全に市民の行動、消費動向、思想傾向を掌握しようとしていることだ。

 NHKスペシャル取材班の『やばいデジタル』によれば、ある調査会社は、グーグルが持っている情報を提供してもらって、誰も知らなかった住所・氏名・年齢・職業・年収をすべて当てるということをやってみせた。年齢は1歳違い、年収の誤差もわずかだった。

 同様にフェイスブックの情報に基づいて有権者の動向を分析し選挙運動に使うということもされている。ケンブリッジ・アナリティカ社は、2016年の米国大統領選挙時、いいね¥報を膨大に集め、有権者の思想と政治傾向をつかみ、ダイレクト広告を打つ。その広告は5000種類に及ぶ。すると、はっきりとトランプ支持率がアップした。

 つまり、情報を集め、分析し、意図的な情報を流すことで市民を支配し誘導することができる。消費も思想もすべて誘導していく。様々なデータを流し、ぱっと飛びついた人の情報を300項目に渡って分析している。本人は誘導されていることにすら気づかず、自らの判断だと思い込む。

 資本や権力者にとって、現在ほどの格差の広がりを市民に納得させ正当化する方策はない。だから、誘導することで市民の不満・怒りを抑え、心理を取り込み、意識、感情を誘導していくほかない。

 その本格化が「デジタル庁」創設だ。2021年9月の発足時には、「民間エンジニアら非常勤職員を含め500人規模」となる。市民の情報を全部握るデジタル庁に100人くらいが情報産業大手から送り込まれることになるだろう。資本と権力が一体となって、情報操作による市民誘導を画策する。その実験場が国家戦略特区のスーパーシティだ。政府、自治体、NPO、地域住民、大学、企業、観光客すべてのデータを一元化する。そしてがんじがらめにして誘導する。

 「新型コロナ対策」と称しているが、傷つき倒れていく市民に対する解決策ではない。資本の利潤を確保するため、グローバル資本主義のシステムとこれを擁護する政権への支持を確保するため、菅は必死で押しすすめようとしている。

 新型コロナ危機はグローバル資本主義とその擁護者である安倍・菅政権の醜悪な本質をあぶり出した。

軍事費も大規模事業も不要

 軍事費拡大も、グローバル資本の武力を背景とした権益確保の手段の一つであると同時に、直接的には軍需産業への市場提供だ。

 日米のグローバル資本が世界に展開するために、中国が邪魔だからと日米軍事同盟を強化し日本列島の軍事化を進める。コロナ危機で命と暮らしを守らなければならない時に、高額兵器爆買いや辺野古新基地建設など毎年史上最高額を更新するほど軍事費を費やす。

 アジア全域の平和を確立することで軍備縮小を実現すべきだ。中国の「拡張主義」もアジアの軍縮・非核化の枠組みに組み込み規制していくべきものだ。「中国が攻めてきたらどう対抗するか」ではなく、軍事行動をさせない枠組みを作り、米中に基地撤去・核放棄を押し付けていく闘いによって、軍隊そのものを無くし、緊張緩和に導くことでしか解決しない。

 軍事力に軍事力で対抗する軍拡競争に走るのは、緊張を高めると同時に、市民生活にとって無駄な金を費やすことになる。

 大規模事業もそうだ。オリンピックや万博、リニア新幹線に無駄金を使う。

 命と暮らしを守るためには、軍事も大規模開発も不要だ。そんなところにカネを使っている場合ではない。

新しい社会システム構築を

Q 新型コロナ危機を脱する闘いの方向は?

 醜悪なグローバル資本主義は、到底、人類の社会システムとしてはあり得ない、もう終わって当然のシステムだ。取って代わるべきものとして民主主義的社会主義をMDSは打ち出し、それに至る過程として18の政策≠公表した。

 米国のDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)が社会主義的変革の方向を大胆に打ち出し市民の多くを組織しているように、MDSも政策を打ち出しグローバル資本主義と原理的に対抗していく。

 支持は広がりつつある。

 米国の青年層では社会主義がいいという人が多数だ。

 日本では、例えば日本維新の会の支持層に青年が多いといわれてきた。「維新は現状を変える変革勢力だ」と青年たちはとらえていた。共産党など左翼が「憲法を守れ」とか、何々を「守れ」というと、現状維持勢力とみなされてしまった。

 しかし、大阪市の「都構想」住民投票でも、大幅な多数ではないにしろ、完全に維新になびくようなことはなくなった。変化が起きてきたのだ。維新の下で苦しめられてきたことがあらわになり、「何とかしなければ」と考える人が増えている。だから、大胆に変革の方向を打ち出していくことが求められている。

 MDSは結成後、20年間一貫してグローバル資本主義と闘ってきた。今まさに、明確に、綱領に掲げた変革の方向を打ち出して支持を得るところに到達した。このコロナ危機の中で同盟員を増やしている。

 綱領と政策を掲げ訴えれば支持されるという展望をもって、2021年は「新型コロナ危機から命と暮らしを守る。医療危機を克服する。そのために、財政出動させる」という闘いをまず展開していきたい。資本のおこぼれのGoToではなく、労働者・市民にダイレクトに給付させる。医療・社会保障・介護のシステムを保持させる。

 政府は国債発行に財源を求めているが、当然不足して行き詰まる。この間に荒稼ぎしてきた資本家たち、大企業に負担させなければならない。それが資産課税であり、金融取引課税だ。持っているところから取り、消費税減税を実施させる。

 バーニー・サンダースたちは、米国で資産課税し、資産家の資産を10年で半分にしてしまうと言っている。こ(ふところ)に手を突っ込んで取ってくるというものだから、実現のハードルは高いが、闘って実現していかなければならない。

 安倍・菅政権はグローバル資本主義システムを維持し、大企業・富裕層の利益だけを保障して新型コロナ危機をやり過ごそうとしている。だが、森友・加計学園、桜を見る会、検事長定年延長問題をめぐる闘いで安倍を追い詰め、コロナ対策を求める闘いと世論で退陣に追い込んだ。

 安倍を踏襲するという菅政権は、懲りずに同じことをしようとしているができる道理がない。新型コロナ対策では、市民の運動で、自治体レベルで数々の譲歩を引き出してきた。そして、菅もGoToトラベルの全国一時中止を表明せざるを得なくなった。トランプ政権に取って代わったバイデンはグローバル資本主義の政権だが、様々な譲歩を強いられている。

 安倍・菅のような政権は終わりにしなければならない。そのためには、DSAやMDSのように政策を明快に打ち出す必要がある。

 きたる衆院選でもグローバル資本主義の政権に対抗する原理・原則を貫いた政策、つまり命と生活を守るために財政出動すること、そのための財源は課税強化によって大企業・富裕層に負担させること―この点を明確にし、市民自身が働きかけることで、市民と野党の共闘を作り上げ、全力で闘わなければならない。

 コロナ危機の元凶であるグローバル資本主義との闘いに立ち上がることで、とりわけコロナ解雇・雇い止めや内定取り消しで苦境に置かれている若者たちを解放していく。ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)が取り組む日韓ユースの連帯や沖縄ツアーで若者が発言する機会を得て、自ら闘いを発信することで解放されていく。







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