2021年01月15日 1657号

【新型コロナ/医療現場から悲痛な叫び/医療崩壊回避へPCR大幅拡充と財政出動を】

 新型コロナウイルス感染症による医療ひっ迫が緊急事態宣言下で進んでいる。菅内閣や小池都政、維新大阪府市政は有効な手立てを全く打とうとしない。感染拡大の抑制、医療機関・医療従事者への支援が急務だ。

 全国の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は12月20日に累計感染者数20万人を突破。累計10万人となった10月29日以降たった2か月で倍増した。

 12月21日、日本医師会、日本看護協会(日看協)など医療関連9団体が共同で「医療緊急事態宣言」を発出。「国民が必要な医療を受けられない『医療崩壊』の怖れがある」と警鐘を鳴らした。

 象徴的なのが看護職員の窮状だ。翌22日、日看協は記者会見を開き、春の第一波℃桙フ看護職員状況調査をもとに実情を伝えた。当時すでに疲弊のピークとなっており、全看護職員の15・4%、感染症指定病院では20%が離職。第三波≠ナは、掃除・洗濯まで看護職員が担っており、一層過酷となっている。回答を寄せたうちの7900人(20%)がいわれのない差別偏見にさらされた経験を持ち、また、医療機関の収益減による給与・賞与カットも行われている。看護職員の感染者は推計2000人に上る。一般病院・介護施設・訪問看護の看護師、保健師も疲労困憊(こんぱい)している。

 そのうえで「働き続けられる環境づくりと、給与・賞与・危険手当が支給されるよう、国は医療機関に強力な財政的支援を」「最大の支援は国民の皆様が感染しないこと」と訴えた。

医療・感染症対策の欠陥

 では、この窮状を招いたのは誰か。

 看護師不足が社会問題となって30年以上、財政的措置をせず放置してきた歴代政権だ。菅も同列だ。12月24日の記者会見で「コロナ対応で派遣される医師、看護師への支援額を倍増している。医師は1時間1万5000円、看護師は5500円」と述べた。「全看護職員の窮状、支援要請」の訴えの2日後に表明したのが「応援派遣医師・看護師」のみへの支援だ。

 9団体がいう「医療崩壊」の主な原因は何か。「抗ウイルス薬」とされるアビガン備蓄にカネはかけても、国内での蔓延防止対策は取らなかったことだ。新型コロナで感染症病指定医療機関は圧倒的に不足した。外国人観光客誘致、企業活動のグローバル展開の下では、輸入感染症対策強化は必須だ。だが、カネ儲けにつながらない感染症対策には目もくれなかった。しかも、菅政権は公的病院つぶしの計画をなおも継続する。

 自治体はどうか。感染症対策を担う保健所は1994年の847か所をピークに2020年には469か所と半減。地方衛生研究所は03年からの5年間で、職員数13%減、予算30%減、研究費47%減というありさまだ(新型コロナ対応民間臨時調査会調査報告書)。

地域医療切り捨てのツケ

 東京都と大阪府は感染拡大が著しい。東京は12月31日、新規感染者が1337人と過去最多となった。大阪も400人をピークに連日300人を超える新規感染者が続いた。12月31日現在、累計感染者は東京が6万177人、大阪は2万9999人。東京・大阪だけで全国の累計感染者数の約4割を占める。



 そして、両方とも公衆衛生行政を切り捨ててきた。

 保健所数は東京23区53から23へ、大阪府は32から18へ、大阪市は24区各1か所から全市で1か所に削減。これに伴い人口10万人あたり保健師数は、東京都・大阪府はそれぞれワースト3位と2位。大阪府・市はそれぞれの地方衛研を統合し全国初の独立行政法人=民営化。人員削減と非正規雇用への置き換えが進む。感染症対策の施設もマンパワーも圧倒的に不足している。にもかかわらず責任者の首長はオリンピック、万博、大阪「都構想」にうつつをぬかす一方で、メディアに露出して市民に自粛を呼びかけ、やってる感だけは宣伝する。これで、感染制御できるはずがない。

 重症病床に加え、軽症・中等症病床もひっ迫した大阪府では、12月23日、吉村知事が民間病院に患者を押し付ける始末だ。この日の対策協議会で、2次救急の医療機関のうち新型コロナ患者を受け入れていない112病院にコロナ病床確保を要請するとした。これに対し「絶対反対。受け入れる訓練はできていないし態勢はない。コロナは急変することもある。(急変した患者を)診てくれないのが現状で、困る」と私立病院協会会長は難色を示した。吉村知事は「やらないという判断ではなく、やるという判断をお願いしたい」と迫る暴君ぶり。のちに協力金支給を表明したが、まず医療を支える財政対策などを示すことが前提だ。

 難色を示す病院側に一理ある。新型コロナ病床に転用となれば、陰圧室の用意、廊下・エレベーターの区分けや間仕切り壁の新設、医療機器の増設と施設設備の改修が必要だ。院内感染からのクラスター発生は避けなければならない。職員の感染防護の教育訓練も時間がかかる。看護職員の過重負担は、日看協の記者会見のとおり。重症病床もギリギリだから急変した時の搬送先の保証はない。しかも、2次救急や外来診療縮小・中断ともなればたちまち経営が苦しくなるし、患者が路頭に迷う。二の足を踏んで当然なのだ。松井大阪市長による十三(じゅうそう)市民病院の新型コロナ専用病院化と同様、対策をおざなりにしてきたツケを医療現場と患者に押し付ける行為だ。

対策にカネをかけよ

 東京・大阪などでまず行うべきことは、行政によるPCR検査の大幅拡充だ。市中感染を広げる無症状感染者を把握し、隔離・保護することだ。これは感染者にとっても利益となる。新型コロナは軽症・中等症の患者が突然死に至ることもある。子どもの死亡も伝えられている。広島県や埼玉県では自宅待機者が突然亡くなり大きく報道された。

 「検査拡大で軽症者が続出すれば医療機関がパンクする」という専門家もいる。だがこれほど次から次へと感染者・重症者・死者が続出すれば、感染者を医療管理下に保護するとともに街からウイルスを隔離するしか方法はない。第一、大規模な検査をしない限り市中での実像をつかむことすらできない。

 大阪府が年間23億円のリース契約で2か月かけて新築した大阪コロナ重症センターは30床に過ぎない。しかも、完成後、看護職員の不足でフル稼働できなかった。しかし、日看協によれば「潜在看護師」は全国で70万人いると言われている。もともと慢性的な人手不足と低賃金で、いわば「やりがい搾取」ともいえる労働実態、あるいは、家庭との両立がむつかしい労働環境で離職した人は多い。記者会見で訴えていたように、看護に専念できる労働環境整備と給料・賞与・手当の保障、安心して復帰できる十分な教育訓練期間があれば現場復帰を望む人は必ず出てくる。

 ニューヨークでは徹底したPCR検査と訓練した4000人の臨時職員による疫学調査で感染拡大を抑え込んだ。中国・武漢では2病院2600床を工期2週間弱で完成させ新型コロナを抑え込んだ。以降、新たな感染者は出ていない。

 行政検査としてのPCR検査を大幅に拡大し、十分な隔離病棟を新設し、「潜在看護師」を発掘し、コロナ禍で失業した人たちを自治体が雇い入れ、人員を保健所に回す。そのためにヒト・モノ・カネを惜しまない。短期的には、市民の命と暮らしを守る手段は他にはない。

 そして、この感染急拡大を教訓に中長期的な感染症対策も同時に打たなければならない。

 医師・看護師等医療従事者養成のため、医療分野はとくに高等教育無償化を拡充すべきだ。独立行政法人化した病院を国公立病院に戻して財政保証し、公的病院の廃止計画を中止し、私立も含めた全医療機関が十分な労働環境を整備できるよう財政出動し医療提供体制を守らなければならない。

    (12月31日)

MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS