2021年01月15日 1657号

【地上げ屋か サラ金の取り立てか/住宅退去の督促 親族に迫る福島県/避難者らが抗議の記者会見】

 福島県が国家公務員住宅に住む避難者の親族に書面を送りつけ、親族宅に押しかけてまで退去督促に協力するよう圧力を加えている問題で、「原発事故避難者『2倍請求』撤回訴訟を支援する会」は12月25日、参院議員会館で抗議の記者会見を開いた。

 親族宛てに文書を送りつけられたのは34世帯。2019年3月の契約終了後も転居先がないなどの理由で国家公務員宿舎に住み続け、家賃等の2倍を「損害金」として毎月請求されている区域外避難者だ。

 支援する会代表世話人の熊本美彌子さんは訴える。「東雲(しののめ)の宿舎には単身の60歳未満の方が多い。ところが、都が避難者に限定して都営住宅の募集をかけたとき、60歳未満は応募できないとされた。公営住宅法の『特定入居』の条件に『災害』はあるが、原子力災害は対象外。子ども・被災者支援法は避難先での住宅確保を国の責務と定めているのに、そういった法整備は全くされていない」

 福島県が実施している住宅相談会について「民間業者が地図を持ってきて、どの地域がいいか聞き、『見つかったら連絡する』。だが、ひと月たっても連絡がない。県が『寄り添って努力している』とはとても思えない」と批判する。

反人道的行為はやめよ

 ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)共同代表の武藤類子さんは福島からオンラインで発言。「避難者は仕事や暮らし、健康など多くの問題を抱え、コロナの追い打ちもあって、自立が難しい。福島県の行為は、被害者の人権と尊厳を踏みにじるものだ」

 「真っ先に思ったのは20数年前の地上げ屋、悪質不動産屋そしてサラ金の取り立て。どこが違うのか」と憤るのは、ひだんれん幹事の村田弘さん。「復興だけが報道され、避難者の問題は水面下に追いやられている。国の施策は災害救助法の適用による公営住宅の提供と家賃補助だけ、しかも5年で終わり。20年3月には帰還困難区域の避難者への住宅提供も打ち切った。安倍前総理が大ウソをついて招致した五輪・パラリンピックで、原発災害からの復興を世界に発信したいからだ。福島県も“2020年被害者ゼロ”を目標に掲げている」

 村田さんは「この問題を考えるとき、原発事故との関連を抜いてもらっては困る」と強調した。「東雲の住宅も自分で選んで入ったわけではない。避難した人たちが国などの差配で『ここに入れ』と割り振られた。1年ごとの契約延長で不安な状態に置かれ、6年目に『あと2年で終わり』と一方的に切られた。忘れてほしくない。一般的な貧困の問題になっていくことに危機感を持つ」

住むところだけは

 避難者から寄せられた手紙を熊本さんが紹介した。

 「(県の職員は)実家まで来て母に『損害賠償金がxx円たまっている。払ってくれないと私たちは給料もらえない』『1月末までに出ていかないなら裁判を起こす』『東京に住みたければいくらでも安いところがある。仕事を辞めて他の安いところを探したらどう? 引っ越し先で職を探したら? 職場が近いからと引っ越ししないのはワガママだ』と。

 パートの給料では引っ越しや賃貸契約の初期費用を貯めるなんて無理です。日々生活をするだけで精いっぱい。やっと一人なんとか生きていけるだけの給料を得ることができている今、それらを全て手放して新たに職と引っ越し先を探せというのでしょうか。“死ね”―そんなふうに言われているように思えてしまう。正直もう死んだほうがいいのかと何度も頭をよぎったこともあります。

 生活する分は自分でなんとかするから、どうか住むところだけは奪わないでください」(Aさん)

 「妻の実家に文書が届きました。実家の住所を調べる法的根拠が知りたい。

 本人の意向を無視して実家がお金を出したなら、オレオレ詐欺と構図は変わらない気がする。家族の人間関係を強引に壊すことは傷害罪にならないのだろうか?

 私の両親は他界しているが、生きていればお上に逆らう息子を勘当しただろう。故郷を捨てさせる踏み絵ですか?」(Sさん)

 支援する会は今後、市民集会などを開き、国会での追及も含めてこの問題を広く可視化していく。

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