2021年01月22日 1658号

【緊急事態宣言下の菅政権予算案/「ポストコロナ」戦略促進する「15か月予算」/命と生活守る予算に組み替えろ】

 新型コロナ感染症の拡大を受け菅政権は緊急事態宣言を出した。だが、補償を伴わない営業・行動規制ばかりで実効性のある策はない。政府予算案はコロナ禍でも高利潤を求める資本のための「経済構造転換」へ猛進する姿勢に貫かれている。命と暮らしを守れと怒りの声をあげ、予算組み換えを要求しよう。

コロナ対策は年度末打ち切り

 緊急事態宣言とともに菅が口にしたコロナ対策のための追加財政支出は、営業短縮した飲食店への協力金引き上げ(1日あたり上限6万円へ)とコロナ対応の病床への補助上乗せ(1病床当たり450万円加算、重症病床で計1950万円)だけだ。あとは「40兆円の経済対策(20年12月)で」と素っ気ない。

 その経済対策(本紙1655号で批判)をベースにした政府予算案(12月21日閣議決定)もひどいものだ。21年度の一般会計総額は106・6兆円。20年度の3次補正19・2兆円と合わせれば125・8兆円と大規模だ。政府はこの「15か月予算」で「コロナ対策や経済底上げに切れ目なく取り組む」と説明しているが、「経済底上げ」一辺倒であることがよくわかる。

 コロナ対策と言えるものは3次補正の4・4兆円に限られ、21年度予算には使途未定の予備費5兆円を計上したに過ぎない(公立病院の病床削減促進には195億円を計上)。コロナ被害に対する救済策は軒並み3月末で打ち切られる。

 たとえば、無利子・保証人不要の個人向け融資「緊急小口資金」「総合支援資金」特例措置の申請期限は3月末。自治体が家賃相当額を家主に代理納付する「住居確保給付金」特例措置も3月末までの新規申請者に限っている。これらは以前からある制度の対象拡大や給付期間延長をコロナ特例として行ったものだが、もともと社会福祉施策としても十分ではなかった。

 本来、コロナ禍があぶり出したセーフティーネットの不備や貧弱さ、使い勝手の悪さなど制度の抜本的見直しと拡充を行うべきものだ。それが今求められている施策だ。

中小企業の淘汰、再編に誘導

 企業向けの「雇用調整助成金」特例措置も2月末までで、3月以降縮小の方針。見直しを口にしてはいるが詳細は不明だ。象徴的なのは中小・小規模事業者に対する「持続化給付金」の扱いだ。個人事業者100万円、法人200万円を上限とする1回限りの給付金ながら、12月21日までに約395万件、5・2兆円が支払われた。事業を維持するには2度、3度の給付が必要。ところが、これを1月で終了させる。



 これに替わって創設するのが「事業再構築促進事業補助金」。新たな業態に転換する中小・中堅企業に最大1億円の補助金を出すという。コロナで経営危機となった中小企業は継続を考えず、別事業に転換せよというのである。ひどい話だ。

 構造転換を強いる菅政権の悪辣さは、予算だけでなく税制にも表れている。予算案と同時に閣議決定された21年度税制改正大綱には、「中小企業の支援」として、「M&A(合併買収)を実施する中小企業者の投資リスクに備える準備金制度」や「投資促進のための措置」を創設するという。中小企業の淘汰・再編を提言する竹中平蔵やデービッド・アトキンソンなどがリードする成長戦略会議の方針が貫かれている。

新自由主義の成長戦略満載

 菅政権初の予算案に見る「菅カラー」は、まさに新自由主義に貫かれた「ポストコロナの成長戦略」だった。加藤勝信官房長官は「次の成長の原動力となるグリーン社会の実現、デジタル化を着実に推進する予算」と狙いを語る。二酸化炭素排出削減に取り組む企業への低利融資制度(3年間で1兆円)や基金(3次補正2兆円)創設。税制でも「脱炭素効果の高い先進的な投資」に税額控除などを準備している。



 環境対策も「成長」=利潤につなげようというのである。利潤のために環境を破壊・収奪し、大きなダメージを与えてきたのは他ならぬ資本主義経済だった。単に「脱炭素化」だけでは、地球環境をとり戻すことはできない。利潤優先の経済システムの転換が問われているのだ。

 デジタル化の推進も資本の利潤のために市民生活を支配するものに他ならない。デジタル庁新設に3千億円、マイナンバーカード普及に1千億円。税制では、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の創設がうたわれた。クラウド化による事業変革に税額控除や特別償却を認めるという。デジタル化の本丸は行政が持つビッグデータなど個人情報を企業に利用させることにある。すでに個人情報保護法の改定作業が進み、通常国会への上程が狙われている。

 他には、補正と合わせ1183億円の五輪予算(東京都・大会組織委あわせ13年度からの総額は3兆円超)や基本方針を閣議決定した万博予算29億円(国・大阪府市・経済界あわせ総予算約3千億円)のイベント、災害対策を装う「国土強靭化」という開発型公用事業関係費(6兆円)。大企業に対する需要喚起策が目白押しだ。

 軍事費(5・3兆円)は7年連続で過去最大を更新。今や、新型コロナなど未知の感染症が発生すれば全世界の国々が協力をしなければならない時代だ。コロナの死者は世界で200万人に迫る(1月10日)。こんな時代に「敵国」をつくり、その攻撃のために毎年5兆円以上も費やすとは全く愚かなことだ。

コロナ危機克服する社会変革を

 菅は官房長官時代に「権力は快感」と酔っていた(秋山信一『菅義偉とマスコミ』毎日新聞出版)。「(官房長官職は)楽しいに決まっているだろう。やりたいことができるんだから」と記者に答えている。だが首相になった今、あれほど継続に固執していたGoToトラベルも一時停止。全国旅行協会会長である二階俊博自民党幹事長に事前の根回しもできず怒りを買った。支持率低下に慌てふためいた菅は、最大のよりどころとする二階に相談さえしなかった。党内に確たる基盤を持たない菅は世論の圧力にことのほかもろい面を見せた。

 コロナ危機を克服し、社会を変える年にしよう。市民の怒りの声を集めれば菅政権を追いつめることができる。

 軍事費を削り医療体制の拡充に振り向けるのは当然だ。生活保護をはじめ社会保障制度の補強はすぐにでも取り組まねばならない。その一方で、コロナ禍でも資産を増やす富裕層、大企業に対する課税強化をはかる必要がある。

 「命と人権と平和を保障し、生活に民主主義を根づかせる」MDS(民主主義的社会主義運動)18の政策を生かし、資本主義がまき散らす害毒を除去する年に踏み出そう。
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