2021年01月22日 1658号

【MDS18の政策とは/第1回/日本国憲法(3)/憲法改悪を阻止し3大原理を実現する 緊急事態は戦争のため】

 自民党の改憲4項目は、12年「改正草案」に比べ、市民の視線が基本的人権の制約に向かないように表現を穏やかにしている。「改正草案」は緊急事態の例として「武力攻撃、内乱」をあげ、内閣の権能として「緊急事態を宣言」できるとし、万人に「国、その他公の機関の指示に対する服従義務」を課したが、4項目は表現上は削除した。だが、事の本質においては変わらない。

 緊急事態条項は、戦争・内乱・大規模な自然災害などの非常事態に国家が発動する「国家緊急権」に基づくとされている。国家緊急権とは「平時の統治機構では対処できない非常事態において、国家権力が憲法の効力を一時停止して超法規的措置を取る権限」を指す。行政・立法・司法といった権力分立の一角でしかない行政府(執行権力)が、一時的にせよ立法権を行使し司法権を停止して、全権を掌握し人権を侵害しうる法律すら制定する権限を与える。憲法学者・樋口陽一は「法を無視することをあらかじめ許す法」と呼ぶ。

 憲法の緊急事態条項が用いられた歴史上の先例は、ファシズムや軍部独裁を導く危険性を実証している。

 ドイツでは第一次世界大戦後、軍人出身のヒンデンブルク大統領らによって250回以上発動され、議会制民主主義を空洞化し、ナチスによる独裁への道を掃き清めた。

 日本では天皇を主権者とした明治憲法下で、天皇が持つ「非常大権」によって「臣民(国民)の権利・義務のすべてが停止されうる」とされ、国会閉会中の緊急事態の際、予算措置を含む勅令を発する「緊急勅令」、国民の権利を定めた憲法・法律を戦時・大規模災害時に停止し軍に行政・司法権を与える「戒厳大権」が明記された。関東大震災の時、東京府(当時)と神奈川県に戒厳令が発せられ、軍の司令官は軍隊に武器の使用を命じ、多数の朝鮮人が虐殺された。

 「国民主権」を基本原理の一つとする現行憲法制定にあたって、当然「非常大権」は盛り込まれなかった。緊急事態において歯止めの効かない自由裁量権を内閣に委(ゆだ)ねる自民党案は、天皇を内閣に置き換え「非常大権」を復活させるに等しい。     《続く》
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