2021年01月22日 1658号

【未来への責任(314) 釜石市の朝鮮人犠牲者認定を】

 私たちは、朝鮮半島から連行され過酷な労働を強いられた上に艦砲射撃の犠牲となった日本製鉄釜石製鉄所の犠牲者について、釜石市の犠牲者認定事業に関わってきた。釜石市民だけでなく朝鮮人犠牲者も追加認定するよう働きかけてきたが、市からは一方的に「保留」とされてきた。真相を明らかにするため、認定事業にかかわる市と釜石製鉄所の協議記録の情報公開請求を行ったが、ほぼ全面的に墨塗りだった(1626、1628号)。

 そこで不服審査請求をした結果、「釜石市情報公開、個人情報保護及び行政不服審査会」は10月2日付で「釜石製鉄所の担当者の役職及び氏名以外の部分を開示すべきである」との答申を出した。これを受け10月28日付でほぼ全面開示が実現した。

 2017年7月6日の釜石製鉄所の回答は、「その資料(供託名簿)は当時の日本製鐵のもの。新日鐵住金は、1950年に法人化し、日本製鐵とは別法人。よって、当社として公認、コメントはできない。その立場にない」というものだ。これは従来の新日鐵住金(現・日本製鉄)の公式見解と変わりない。

 市の「今後の対応」にも、「市がその資料を基に犠牲者として認定することに関与しないということなどを踏まえ、当該資料は、今時点で認定する根拠に足る資料であると思われる(現に、戦災誌には、当該資料に載っている氏名で犠牲者として記載されている朝鮮人がいる)」と記録されている。2016年度に設置された「犠牲者特定委員会」で、「『朝鮮出身労務者未給与金預貯金等明細書』を根拠にする場合は、製鉄所に確認を取るべきと委員から意見があった」件については、解決済みであることは明らかだ。

 だからと言って、追加認定が順調に進むとは限らない。市長は常設の「犠牲者特定委員会」を年度内に設置すると表明しているが、「なぜ、認定を保留にしたのか」などの私たちの公開質問状には「法的義務はない」と回答を拒み続けている。

 情報公開で明らかになったのは、「企業城下町」釜石の姿だ。3月11日で東日本大震災から10年となるが、釜石市は未だ復興の途上だ。製鉄所との関係を悪化させたくないという市側の過剰な「忖度(そんたく)」が記録から浮き彫りになる。また、「橋野高炉」が世界遺産として認定され、加藤康子(産業遺産国民会議専務理事)などを招いてのイベントも継続的に開催している。「地域振興」の名の下に、歴史の真実が封印されようとしているのが、今の釜石だ。それは、犠牲者を冒涜(とく)する行為であり、官製ヘイトにつながる。私たちは、朝鮮人犠牲者の追加認定を必ずやりとげる決意だ。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)

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