2021年01月22日 1658号

【コラム見・聞・感/福島事故10年 原発をなくすには/ある推進派からの提案】

 「原発立地地域に健全な反原発運動は必要だと思っているんです」。そう語るのは、北海道泊原発の地元・岩内町役場で元助役を務めた大嶋正行さんだ。「福島事故後も私の原発推進の立場は変わらない」と前置きしつつ、続ける。

 「泊もそうだが、原発を誘致した地域はどこも危険性と引き替えに町を売り、その代わりに原発で食べてきた。誘致当時の町長から私が言われたのは『安全だけは絶対に確保しろ。トラブルなど少しでも何か起きればすぐに原発を止めるという気概がなければ安全は守れない』ということ。立地自治体がその気概を持ち、首長、議員が電力会社に待ったをかけるには反対勢力が必要だ」

 岩内町で「反対運動が頑張れば、観光客は安心して来訪できる」。岩内町に近いニセコでは観光に町の将来を託し、美術館も建設した。だが観光産業のほとんどは外国資本で、観光客がいくらカネを落としても地元の利益にはならない。「こんな植民地状態では意味がない。地元企業による本当の意味での地場産業を作り、地元にカネが落ちるようにしなければならない」と大嶋さんは訴えた。

 「原発の時代はそろそろ終わる。原発から地場産業への転換を考える時期に来ている。地場産業ができれば、原発で食べている人たちが徐々にそこに移っていける。反対派も原発がなくても食べていけると主張する根拠が得られる」。長年、町政を担当してきた人だけに地に足のついた現実的脱原発論だ。「現地から遠く、原発と利害関係のない東京や札幌の反原発運動と違って、立地地域の反原発運動には、ポスト原発において何で食べていくかという視点が必要」との指摘は重要だ。

 福島から10年。省エネルギーもずいぶん進み、市民意識も変化した。唯一変われていないのが立地地域だ。ここをどうするかが今後の脱原発の成否を握っているという大嶋さんの感覚は、福島後の10年を見てきた筆者と一致する。

 核のゴミ反対運動を続けてきた豊富(とよとみ)町の久世薫嗣(くせしげつぐ)さんは「高齢化して人口減少が続くと原子力ムラに狙われる。継ぎたいと思える魅力的な農業を作り、若者を都会に流出させないことが必要だ」と若手農業者育成に力を入れる。脱原発実現のためのひとつの答えだ。(水樹平和)
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