2021年01月22日 1658号

【罰則で従わせたい菅政権/緊急事態宣言に効果なし】

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は「緊急事態宣言」の再発令に踏み切った。世論の受け止めはどうか。

 日本トレンドリサーチ社が実施したアンケート調査によると、全国では7割強の人が「賛成」だった。発令対象の1都3県に在住の人でも68・7%が賛成している。賛成の理由を聞くと、医療崩壊を懸念する意見が圧倒的に多かった。

 この背景には検査・医療体制の拡充を怠り、感染再拡大を招いた政府への不満がある。「すぐに危機感を持って動け」という怒りが緊急事態宣言を求める声として現れているのだろう。しかし、ここは冷静になるべきだ。菅政権が発した緊急事態宣言は感染抑制に有効な措置なのか。

 前回の緊急事態宣言発令時、外出がどれだけ抑制されたかを計測・分析した経済学者の渡辺努・東京大教授は「宣言による抑制効果は小さく、今回はさらに薄くなるだろう」と推測。新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正して罰則などを科しても効果は期待できないと指摘する(1/9毎日WEB)。

 なぜか。渡辺教授と共同研究者の調査によると、全体の外出抑制のうち緊急事態宣言を含む介入効果によるものは4分の1に過ぎず、4分の3は情報効果によるものだった。つまり「感染者が急増して医療体制が逼迫(ひっぱく)しているなどの情報を知り、自分の身を守るため感染を避けたいという『恐怖心』が働いて人々の行動に影響を及ぼした」ということなのだ。

 また、米シカゴ大の研究によれば、米国で行われたロックダウン(都市封鎖)による外出抑制効果は日本とほとんど変わらなかったという。渡辺教授は「複数の研究から、強制力が外出抑制にはあまり寄与しないという見解はグローバルなコンセンサスになりつつあります」と語る。

 特措法の「改正」については、日本大学の福田充教授が危機管理学の観点から警鐘を鳴らしている。「大前提として、危機に関する法律を危機の最中に変えることは危険だ」(1/8毎日WEB)。危険な状況に置かれている集団の中で議論をすると、結論が極端になりがち、というわけだ(社会心理学でいうリスキーシフト効果)。

 行政の指示に強制力を持たせるために罰則規定を設けることは、憲法が保障した表現の自由や政治活動の自由の侵害につながる。「コロナ危機という緊急事態だから仕方ない」「一気にやってしまえ」でいいわけない。

 信頼されないリーダーが、言葉では納得させられないから罰則を振りかざして従わせようとする――菅首相がやっていること、やろうとしていることは愚策の極みである。    (O)

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