2021年01月22日 1658号

【「桜」追及を忘れるな/日本を溶解させた安倍晋三/嘘に加担してきた菅も同罪】

 安倍晋三はつくづく悪運が強い男である。新型コロナウイルスの感染状況が深刻化し、「桜を見る会」の一件が吹き飛んでしまった観があるからだ。しかし、「首相のウソ」は民主主義の根幹を揺るがす問題だ。あいまいな形での幕引きを許してはならない。

疑問だらけの不起訴

 安倍前首相の後援会が開いた「桜を見る会前夜祭」をめぐり、東京地検特捜部は12月24日、公職選挙法違反と政治資金規正法違反の両容疑で告発されていた安倍を「嫌疑不十分」で不起訴処分とした。政治資金規正法違反の罪(不記載)で公設第一秘書を略式起訴しただけだった。

 安倍を刑事告発した市民グループは、この処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てた(1月4日付で受理)。「『秘書が勝手にやったことで知らなかった』との供述は到底信用できない」というわけだ。

 たしかに、東京地検の判断は疑問だらけである。刑法が専門の松宮孝明・立命館大学教授は、公職選挙法違反での立件がスルーされたのはおかしいと指摘する。「公選法は選挙人らへの供応接待や寄付を禁じており、その意味で安倍氏を立件できたと思うからです」(12/24毎日WEB)

 ちなみに、松宮教授は菅義偉首相に日本学術会議の会員任命を拒否された6人のうちの1人だ。時の権力者に忖度することなく正論を主張する学者ゆえに排除されたということが、ある意味よくわかる。

 話を元に戻すと、松宮教授が指摘するように、前夜祭の会費補填は有権者の買収にあたる。そもそも、税金を使って開く「桜を見る会」に自分の後援者を大量招待していたこと自体が国政の私物化であり、首相の立場を利用した買収行為にほかならない。

 安倍は「自分は選挙で常に圧勝している。利益供与の必要はない」と豪語した(12/25衆院議院運営委員会)。たしかに目先の選挙対策ではないかもしれないが、「桜を見る会」への招待はそれ以上の意味がある。「自分の政権に味方すれば、いい思いができる」と見せつける効果である。

 事実、安倍は2019年の同会で「皆さんとともに政権を奪還して7回目」とあいさつしている。公平性が大前提の公的行事であることを無視し、安倍応援団の特権的イベントにしていたことは明らかだ。

政治的責任は重い

 法的な問題以上に悪質なのは、事実をごまかすために安倍がウソをつき続けたことである。衆院調査局によると、「桜を見る会」の件で事実と異なる国会答弁を計118回していたという(2019年11月〜20年3月)。内訳は「事務所の関与はない」が70回、「ホテルからの明細書はない」が20回、「補填はしていない」が28回であった。

 首相の虚偽答弁を取り繕うために閣僚や官僚も嘘を重ねた。公文書を隠蔽・廃棄した。この図式は森友・加計学園事件とまったく同じだ。ウソが明らかになった今も変わっていない。

 ご飯論法の名手として知られる加藤勝信官房長官は、とんでもない屁理屈で安倍を擁護した。いわく「何をもって虚偽答弁というか、必ずしも固定した定義が国会にあるとは承知していない」(12/25)。参院議院運営員会で質問に立った自民党の高橋克法議員もひどかった。持ち時間の半分以上を「安倍政権の功績」礼賛に費やしたのだ。

 マスメディアもチェック機能を果たせていない。安倍の釈明会見(12/24)に参加を許されたのは、与党を対象とした記者クラブの加盟社のみ。「身内」を相手に安倍が自分の関与を否定する光景は茶番劇以外の何ものでもなかった。

通常国会で追及を

 首相があからさまなウソをつき、バレても居直り続けるこの事態。文筆家の平川克美は「国家としての日本、国家の諸制度が、安倍政権の7年あまりで溶解した」「安倍氏のウソを追認してきた菅(義偉)首相も同罪です」(12/27毎日)と批判する。「法ばかりでなく、国家の諸制度は人々の信頼に基づいて成り立っているわけです。その信頼を支える『事実』が実はウソだった、ウソをついてもいいんだ、ということになれば、私たちは一体何を支えとして社会を成り立たせていくのか」

 実際、政府が発するメッセージを誰も信用しなくなっている。新型コロナウイルス対策として「不要不急の外出自粛」を呼びかけても、人手はさほど減らなかった。ステーキ会食≠していた菅の言葉に説得力はないということだ。

 「コロナでそれどころじゃない」というムードに流され、「桜を見る会」問題を終わったことにしてはいけない。市民を欺き続けてきた安倍と菅の責任追及は、通常国会の大きな焦点なのである      (M)

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