2021年01月22日 1658号

【どくしょ室/白い土地 ルポ福島 「帰還困難区域」とその周辺/三浦英之著 集英社 本体1800円+税/避難解除の今を生きる人びと】

 福島事故後、原発周辺の「帰還困難地域」は役所の避難解除予定台帳の予定日欄が空白となっていることから「白地」と呼ばれる。著者は、政府の帰還政策が進めば進むほど「白地」の地域が忘れ去られ、黒く塗りつぶされていくような想いに駆られる。それゆえに、新聞記者として地元で生活し、「白い土地」にいた人びとの今に触れ、記録し発信したいと考えた。

 福島県浪江町で新聞配達店舗を営む鈴木裕次郎は、避難解除後、一人で数少ない帰還者らに新聞を届ける。著者は鈴木を手伝い自らも配達する。鈴木は新聞協会の地域貢献大賞を受賞。東京での表彰式での思いは複雑だ。式の帰り、光の洪水の東京と真っ暗な福島を思い、「浪江町の避難指示は、やっぱり少し早すぎたんですかね」という鈴木の言葉が著者の胸に突き刺さる。

 著者は、前浪江町長馬場有(たもつ)にその死の直前までインタビューしていた。事故発生は東京電力から何の連絡もなく報道で知り、町民の避難を決意。ところが、避難した浪江町津島地区は高濃度の放射性物質で汚染されていた。事故直後の凄惨な実態と国・東電に立ち向かわざるを得なった苦闘の日々が、語られる。

 2017年2月、馬場は「町を残すために」と町役場を避難解除地区に戻す。「苦渋の決断」と表現した。「解除は早すぎたのでは」―著者の問いに町長は最後まで答えることはなかった。

 著者は20年3月浪江町で安倍晋三首相に突撃質問する。「地元の記者です。福島第一原発はアンダーコントロールだと思っていますか」。福島の人びとが"嘘"と見破りつつ口をつぐまされていることを、問い詰めたかったのだ。 (N)
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