2021年01月29日 1659号

【新型コロナ特措法に罰則付加/感染拡大防止できず 人権侵害助長/無能な菅内閣の強権あらわ】

 新型コロナウイルス感染拡大に対し、菅政権は新型インフルエンザ等特別措置法、感染症法などに罰則を加える改悪案を1月22日にも閣議決定し、通常国会に提出しようとしている。宿泊療養や時短営業の要請に応じない個人や事業者に罰を与え、従わせようと言うのである。罰則化は感染実態の把握を困難にするばかりか、差別・分断を助長し人権侵害を引き起こす最悪の手だ。政府は2月初旬にも強行成立を狙う。罰則導入を許してはならない。

無策のうえに脅しにかかる

 「感染経路の調査に応じない」「療養中のホテルから逃げ出す」「時短営業に応じない」…。新型コロナ感染拡大に無策な菅政権がわずかな事例をあげつらい、「罰則やむなし」に誘導しようとしている。

 新型インフルエンザ等対策特措法(コロナ特措法)。新型コロナに対して外出制限や施設利用停止の要請・指示など緊急事態措置の根拠とされる法律だ。現在、11都府県を対象に2月7日までの間、飲食店の営業を夜の8時までとする「要請」などが行われている。

 政府はこの法律に強制力を持たせようと行政罰(50万円以下の過料)の導入をはかる改悪案を準備している。報道によれば、「罰則」への段階的な措置として、緊急事態措置の前段に都道府県知事に権限を持たせる「まん延防止等重点措置」を新設。現在、緊急事態宣言前の協力要請(第24条)に応じない場合、店名の公表による社会的制裁を行っているが「まん延防止等重点措置」で「協力要請」を「命令」に切り替え、知事が立入指導や過料を課すことができるようにする。

 政府は罰則の発動をまず知事に任せた。これにより、営業損失の補償もまず自治体に押し付けようとの魂胆もあるが、狙いは市民の感染防止の願いを利用し、強力な私権制限を受け入れさせることにある。

「危機」利用し制裁強化

 新型インフルエンザ等対策特措法は民主党政権下の12年に制定されたが、その時の被害想定は「入院患者200万人、死亡者64万人」という大規模なものだった。結局、大げさな被害想定で、タミフルやアビガンを備蓄し、製薬資本が大儲けをした。

 科学的根拠を欠いた「危機感」をあおり、まともな審議もなく作った法律に、今回、罰則を加え強制力を高めようと言うのである。その当時も日本弁護士連合会をはじめ多くの団体が人権制限条項に反対し、恣意的な発動の恐れを指摘していた。実際、新型コロナでの緊急事態宣言は首相の胸先三寸で決まった。「コロナ危機」を利用した制裁強化には断固として反対しなければならない。

 時短要請に「協力」しない理由は明らかだ。ある飲食店主は「生きるために営業短縮しない。悪いことをしてるつもりはない。裁判で闘う」とマスコミに答えている。要請に応じた飲食店には1日6万円を上限とする「協力金」が支給される。だが、その額では「焼け石に水」。東京都では、当初、大手チェーン店を支給対象から外していたこともあり、ますます「協力」姿勢は薄れている。

 飲食店に時短を要請するなら、少なくともどれだけ感染拡大防止効果があるのか、他の業態との比較はどうかなど科学的根拠を示すべきだが、それはない。誰しも自ら健康でいたいし、他人を感染させようとも思わない。休業を求める以上、補償は無条件に必要だ。それが政治のすべきことだ。

教訓いかさぬ感染症法改悪

 コロナ特措法と同様に、罰則を加える感染症法改悪も問題だ。新型コロナ感染症は、指定感染症として政令により感染症法の仕組みを22年1月末まで期間限定で準用する。無症状感染者を患者として扱うのも、入院勧告や就業制限も政令で決めている。その規制内容は最も危険な感染症に位置づけられる1類(エボラ出血熱、ペスト)より厳しいといえる(別表)。



 新型コロナPCR検査陽性者の入院措置は、この法律を準用して行われているため、宿泊療養拒否を罰するには感染症法そのものに罰則規定を加えることになる。感染経路を見つけ、拡大防止を図る積極的疫学調査を拒む者に対する罰則も同じだ。

 だが、感染症法制定の経緯を踏まえれば罰則など見当違いも甚だしい。旧伝染病予防法(1897年)にかわって、1999年に制定された感染症法は前文にハンセン病、エイズ患者に対する「いわれのない差別や偏見が存在した事実を重く受け止め、これを教訓として今後にいかすことが必要である」と記している。

 教訓とすべきは何か。ハンセン病やエイズの誤りは、疾病や感染のメカニズムを解明することなく患者を強制隔離・排除し、「社会不安」を抑え込もうとしたところにある。

 日本医学会連合は1月14日、政府の感染病法改悪の動きが報道されるとすぐに罰則に反対する緊急声明を出した。「感染症の制御は国民の理解と協力によるべき」とし、罰則による強制は「検査を受けない、検査結果を隠ぺいする可能性」が高まり、かえって「感染の抑止が困難になる」と指摘している。ベースになっているのは、「まん延防止の名目の下、科学的根拠が乏しいにもかかわらず、人権侵害が行われてきた」結核・ハンセン病患者の強制収容に対する反省だ。

 声明は、入院勧告や自宅療養などには「措置に伴って発生する社会的不利益に対して、本人の就労機会の保障、所得保障や医療介護サービス、その家族への育児介護サービスの無償提供などの十分な補填を行うこと」を求めている。なぜ、宿泊療養や検査拒否をするのかに思いを馳せれば、当然の要求である。

 政府はそんなことは口にもしない。日本医学会連合には国内136の医学系学会が加盟する。その加盟団体である日本公衆衛生学会と日本疫学会は別に連名で菅義偉首相、田村憲久厚生労働大臣に反対声明を送りつけた。

感染実態を明らかにせよ

 国内で新型コロナ感染症患者が出てから1年になる。この感染症について明らかになったことは何か。どんな知見が得られているのか。政府の発する情報では混乱するばかりだ。飲酒を伴う夜の会食は大声となり、飛沫感染のリスクを高めると説明をしながら、昼食時も危ないとする。飲食店主ならずも、政府に対する信頼はかけらもない。

 菅政権に対する支持率は下がり続けている。毎日新聞の世論調査(1/16)では、支持率33%に落ち込んだ。菅政権のコロナ対策を評価するのは15%に過ぎない。

 罰則で脅すことは、差別を助長し人権侵害を強めることになることを重ねて指摘しなければならない。新型コロナ感染症の実態に正しく向きあえ。新型コロナの毒性で心配される「無症状から急変した症例」や4千件の死亡例を一つ一つ点検せよ。感染実態を把握するためにも広く社会的検査を実施せよ。



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