2021年01月29日 1659号

【医療崩壊の今 増設どころか病院つぶしに予算195億円】

 医療崩壊のただ中に開かれる通常国会。ここに、病院の増設ではなく、公立・公的病院を削減するための予算案が提出される。誰もが冗談ではないか≠ニ思う菅政権の政策。一体どうなっているのか。

 話は少しさかのぼる。2014年、医療介護総合確保推進法案に関する国会審議で当時の厚生労働省医政局長は、法案の指示に従わない医療機関名の公表などについて「懐(ふところ)に武器を忍ばせている」「実際に使うことを想定しているわけではない」と説明した。なんとも物騒な例えだ。

 その武器が19年9月に使われた。厚労省は、自治体が運営する公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の424(再調整後に440に増加)を名指しして再編・統合すると発表したのだ。関連する病院だけでなく地方6団体(知事会、市長会)など全国から反対の声が上がった。

 怒りに押された厚労省は「(公表は)地域での議論を活性化させる目的」などと言い逃れたが、撤回はしていない。新型コロナによる医療危機が深まる現状を見れば、病院廃止策は無謀でしかない。ところが、その無謀なことが行われようとしているのである。

コロナ対応病院まで削減

 昨年12月の閣議で21年度予算案が決定された。政府は、20年度第3次補正予算案と一体化させる「15か月予算」を組んだ。医療について見ると「感染症防止に配慮した医療・福祉サービス提供体制の確保、PCR検査・抗原検査等の体制構築」などに総額約1兆8500億円が計上された。

 額自体、現場の要請に全く応えられる規模ではないが、見過ごすことのできないものがある。「病床機能再編支援」として195億円が含まれているのだ。

 病床機能再編支援とは何か。医療の市場化を狙う地域医療構想の実現のために「自主的な病床削減や病院の統合により病床廃止に取り組む際に財政支援」するとされる。その対象が名指しされた440の病院であることは間違いない。つまり、名前を公表して医療費増の犯人扱いした挙句、今度はカネに物をいわせて病床・病院べらしへ追い込もうというのだ。

 440の病院のなかで53病院(106床)は感染症指定医療機関であり、現在119の病院がコロナ対応をしている。この病床機能再編支援によってコロナ感染者治療の最前線で奮闘する病院をつぶそうというのだから、菅首相の「国民の命を第一に」発言がどれほど恥知らずのものか。菅に殺される≠ェ現実になろうとしている。

 過去300年でインフルエンザの全世界的流行は7回。新型コロナウイルスも含め、感染症の大規模な流行は周期的に起こっている。グローバル化の下、その周期は短くなっており、今後の可能性を考えれば、医療体制の強化は不可欠だ。




モノ・カネ・ヒト投入を

 にもかかわらず、2019年5月経済財政諮問会議が出した「補助金活用の病床削減、診療報酬の大幅な見直しによる病床機能の転換を」との提言が実行され、病床削減と医療の商品化を進める政策が強まっている。それは医療崩壊が叫ばれている現在も変わらない。

 昨年12月の厚労省「医療計画の見通し等に関する検討会」は、「(新型コロナが続く中でも)人口減少・高齢化は着実に進みつつあり、こうした実態を見据えつつ、医療機能の分化・連携の取組は不可欠であることなど、地域医療構想の背景となる中長期的な状況や見通しは変わっていない」と開き直っているのだ。

 新型コロナは、日本の医療体制がそもそもギリギリの状態であったこと、その抜本的拡充が緊急の課題であることを人びとに知らせた。病床削減や廃止に195億円もつぎ込むことをやめさせ、命を守るためにモノ・カネ・ヒトをただちに投入させなければならない。
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