2021年01月29日 1659号

【「菅話法」にだまされるな/「日韓協定で決着済み」は嘘】

 菅首相の受け答えの特徴は、明確な根拠を示さず結論を押しつけることにある。日本軍「慰安婦」訴訟のソウル中央地裁判決への反論でも、この「菅話法」がさく裂した。いわく「慰安婦問題は1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決済みだ」。

 毎度おなじみの決着済み論だが、この言い分はすでに破綻している。2005年、韓国政府は日本の植民地支配による被害者の要求に押されるかたちで請求権協定に関する文書を全面公開した。その結果、「慰安婦」問題が交渉の議題に上がらなかったことがはっきりしたからである。

 韓国側の交渉責任者であった李東元(イドンウォン)元外相は、1995年の段階で「当時の協定条項には慰安婦の問題と被爆者、徴用者に対する賠償はどこにも含まれなかった」と証言していた。これが外交文書で裏付けられたことになる。

 このように、日韓請求権協定は政治的妥協の産物であり、被害者の救済は置き去りにされた。特に日本政府側には戦後補償という概念はまったくなかった。

 そもそも、請求権協定の「完全かつ最終的に解決」とは両国が外交保護権を相互に放棄するという意味であって、個人が有する請求権を放棄したものではない。これは日本政府自身の一貫した見解でもある。

 国家が条約によって個人の請求権を消滅させたとなれば、財産権と補償について定めた憲法29条3項により補償の問題が生じることになる。そこで日本政府は自国民からの補償請求を封殺するために、「個人の請求権は消滅していない」と説明してきた。

 日本のメディアは「日韓請求権協定で決着済み」論を無批判にたれ流しているが、これは日本政府の一方的な見解にすぎず、事実ではない。  (O)
MDSホームページに戻る   週刊MDSトップに戻る
Copyright Weekly MDS