2021年02月05日 1660号

【菅の口から「国民皆保険制度見直し当然」/医療無料化にむけ税金使え】

思わず本音が

 菅義偉首相は1月13日の記者会見で「国民皆保険を続けていく中で今回のコロナがあり、もう一度検証していく必要はある。それによって必要であれば、改正するのは当然」と発言した。会見がテレビ放映されるやいなや「国民皆保険制度の見直し発言」とSNS上で炎上。加藤勝信官房長官は翌14日、「国民皆保険制度を維持し対応力を高めるという意味だ」と「首相の真意」の釈明に追われた。

 菅の発言は、新型コロナによる医療逼迫(ひっぱく)状況に「民間医療機関の協力を得るために医療法改正の意思はあるか」と記者に聞かれたことに答えたものだった。聞かれてもいない国民皆保険制度に言及したのは、いつもの「言い間違い」ではない。菅の頭には国民皆保険制度の見直しがあるということだ。

 国民皆保険制度とは、患者(被保険者)は割引価格で医療を受けられる公的医療保険制度で、69歳以下は7割引き(自己負担3割)、70歳〜84歳は8割引き、75歳以上は原則9割引きになる。割引分は保険者(保険を運用する団体)が支払う。

 保険の種類には、被用者保険(労働者とその扶養家族が対象)と国民健康保険(自営業者・短時間労働者・非就業者などが対象)、後期高齢者医療保険があり、3か月以下の短期滞在外国人や生活保護受給者を除くすべての国内在住者を対象としている。




コロナで負担増

 コロナ対策で国民皆保険制度はどんな影響を受けているのか。

 まず、PCR検査費用だ。医療機関での費用は一回1万8000円。患者の負担は3割の場合で5400円となるが、公費負担となった。だが7割分の1万2600円は保険者負担。後期高齢者の場合は9割1万6200円となる。つまり患者は無料だが、保険者の負担はそのまま変わらないということだ。抗原検査も保険適用とされ、同じことになった。

 本来、感染症対策にかかる検査費用は国が負担すべきものだが、保健所や地方衛生研究所による行政検査が進まないため、検査機関を広げようと保険適用としたことで、結局、保険料支払い者(市民・雇用主・自治体)に負担が押し付けられた。

 検査費用だけではない。感染症法による感染症指定医療機関や宿泊施設、自宅での療養にかかる医療費は都道府県の負担とされているが、保険適用となれば、保険者が7割〜9割を負担しなければならなくなる。

 感染症法に定める「新感染症」は保険を適用せず、全額公費支出されるのだが、新型コロナは、「純粋に公衆衛生、感染症学的な立場から言えば新しい感染症」との専門家の指摘(3/13参院内閣委)にもかかわらず、「新感染症」ではなく「指定感染症」とされたため、全額公費とはならなかった。

 そもそも、入院勧告の対象となる第一種・第二種感染症は結核を除き、極めてまれな病気であり年間発生件数はゼロ。保険適用されても保険からの支出はゼロだ。ところが新型コロナは年間PCR検査数500万人、入院患者数累計30万人にもなった。入院医療費や自宅・ホテル療養者への往診費などの負担を強いられ、保険財政を圧迫するのは明らかだ。

 加えて「医療機関支援策」である診療報酬引き上げも、医療費の増となり保険財政を圧迫する。

 国民皆保険制度はコロナ以前から過重な負荷がかかっていた。

 例えば大企業などの健保組合の数。1992年の土地・証券バブル崩壊直前には1827組合あった。そこをピークに、2020年には1389組合にまで減少した。

保険運営は限界

 バブル崩壊やリーマンショックを契機としたリストラや非正規雇用増による被保険者の減少、長年にわたる労働者賃金低下で保険料収入が減少。そのため財政破綻し、解散する健保組合が続出したのだ。さらに今コロナで賃金減少。その影響は「4000億円の赤字増」と試算されている。ますます苦しくなるのは目に見えている。

 被保険者数が一番多い協会けんぽも、非正規雇用者も加入できるようにし保険料収入を増やしてきたが、赤字体質は変わっていない。

 各保険者とも重荷となっているのが高齢者医療への拠出金だ。健保組合では義務的経費の50%前後、協会けんぽでは40%程度を占める。

 「国民皆保険制度を維持し対応力を高める」のが「真意」というのなら、新型コロナについては患者の自己負担はもちろんのこと、保険者の負担も無くし、全額を公費負担とすべきだ。

 そして、感染症対策とは別に、高齢者医療への国費の負担を大幅に増やさなければならない。そのうえで、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となる2025年に向け、後期高齢者について政府が計画する負担倍増などではなく、医療の国費負担大幅増と保険者負担の軽減を図らねばならない。感染症に限らず、経済格差が「命の格差」となってはならない。それには医療無料化が必要だ。これが新型コロナ感染症拡大に直面してめざすべき、医療制度・体制を見直すべき方向だ。
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