2021年02月05日 1660号

【未来への責任(315) /日本政府の国際人権法無理解】

 1月8日、ソウル中央地方裁判所は、日本政府に対し12人の元「慰安婦」被害者に1人1億ウォン(約9400万円)の損害賠償を命じた。判決が出るや否や、茂木敏充外相は「国際法上も2国間関係上も到底考えられない異常事態が発生した」と述べた。これは2018年10月30日韓国大法院が日本製鉄に対して元徴用工被害者に賠償を命じたとき「日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している。今回の判決は国際法に照らしてあり得ない」と安倍首相(当時)が述べたのと軌を一にする。日本政府は、韓国の司法は国際法を理解もせずその時の政権に「忖度」する「非常識な存在」としか見ていない。

 2018年の大法院判決は「日本政府の韓半島に対する不法的な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提にする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権は、請求権協定の適用対象に含まれない」と述べて不法な植民地支配に起因する人権侵害は回復されなければならないとした。

 今回の判決は「被告となった国家(日本政府)が国際共同体の普遍的な価値を破壊し反人権的行為により被害者らに激甚な被害を与えた場合にまで、これに対する最終的手段として選択した民事訴訟において裁判権が免除されると解釈することは…不合理で不当な結果が導かれる」として、過酷な性被害を受けた元「慰安婦」女性たちの人権救済を図るために「主権免除」の適用を認めず日本政府に損害賠償を命じたものだ。

 かつて国際法は国家間の関係を律するものとされてきた。しかし、20世紀における2度の世界大戦を経て、国際社会の平和と安全保障の実現のための基盤として基本的人権の尊重が不可欠であるとの視点から国際法の「主体」としての個人に目が向けられ、国際人権法が発展し植民地主義の克服へとその歩みが進められてきた。韓国の2つの判決は、たとえ過去の植民地支配下の人権侵害であっても、被害当事者を抜きにした国家間の合意や主権免除を口実に個人への人権侵害が放置されてはならず、法的救済が図られるべき、とする国際人権法の現在の到達点を示す判決でもあった。

 しかし、日本国憲法の3原則の一つである基本的人権の尊重を忘れて、「国家あっての個人、国家に個人が従うのは当然」としか考えない今の日本政府の中心にいる政治家たちは、この判決が理解できないのである。
(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

 
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