2021年02月05日 1660号

【読書室/連帯の時代 コロナ禍と格差社会からの再生/伊藤千尋著 新日本出版社 本体1700円+税/対案は民衆の連帯だ】

 民衆の連帯こそ、社会を民主的に変革できる。新聞社の特派員として東欧革命を取材した筆者は、30年前に起きた東欧民主化とソ連解体がそのことを実証したと言う。

 80年代半ば以降、ソ連のゴルバチョフ政権による改革が、東欧民主化への号砲となり、ポーランドの「連帯」政権の誕生、ベルリンの壁崩壊、バルト三国の独立、チェコのビロード革命と怒濤のごとき変革。それは民衆の圧倒的な連帯の力によって成し遂げられた。

 著者は30年を経て、東欧諸国を再訪し、革命を実現した民衆の力を再確認する。89年バルト三国の民衆は、三国の首都を結ぶ人間の鎖をつくることで、独立の意思を示した。91年ソ連軍の侵攻に対し、民衆は「非暴力、非協力」を貫いた。武器としたのは歌声だった。バルト三国では村々に合唱団があり、歌をこよなく愛する人びとなのだ。

 著者は今、こうした民衆の連帯こそコロナ禍の社会に必要なのだと訴える。本書の第1章は、欧州で最初にコロナ禍が深刻となったイタリアから始まる。経済発展を人命より優先してはならず、そこには対抗できる連帯がある、と注目する。

 グローバル資本と富裕層だけが豊かになり格差、貧困が拡大する新自由主義の本質をコロナ禍は暴いた。アメリカでは人種差別に対する怒りが爆発し、民主的社会主義に対する支持が拡大した。日本でもSNSで広がった反対運動が「検察庁法」改悪案を廃案に追い込んだ。

 人は孤立すれば無力感に陥る。連帯すれば社会を人間的に変えることができる。これが著者が欧州の歴史をめぐる旅で目の当たりにした事実だという。 (N)
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